憑依好きの人の掲載作品冒頭になります。
お母さんが最近不眠症らしい。
「朝起きたときに疲れが残ってることが多いのよね。睡眠時間が足りないことはないはずなんだけど……。」
以前首を傾げながらお母さんはそう言った。
確かにいつも大体日付が変わる前に寝ているみたいだし、いびきをかくわけでもないから睡眠の質も悪くないはずだ。
だがしばらく様子を見てもなかなか良くならないようで今日なんかは目にクマができてしまっていた。
せっかくの綺麗な顔が台無しだ。
今年で高校3年生になった私から見てもお母さんはとても美人だった。家事をするために今は束ねているけど長くて綺麗な栗色の髪。ちゃんと手入れされているおかげでシミひとつない白い肌。優しい笑みを浮かべる整った顔にモデル顔負けのスタイル。子供の頃から大人になったらお母さんみたいな綺麗な女性になりたいと思ったくらいだ。
「病院で一回診てもらったほうがいいんじゃない?怖い病気とかだったら嫌だし。」
「そうねえ、今度いつものクリニックの先生に診てもらおうかしら。って、あなたも人の心配してないで早く支度した方がいいんじゃない?学校に遅れるわよ?」
ゆっくりと朝食を食べていた私がお母さんに言われてダイニングルームの壁に掛けられている時計を見てみると、気付かないうちに家を出る時間を10分も過ぎていた。
「やばっ!もうこんな時間!?朝練に間に合わなくなる!」
慌てて私はテーブルから立ち上がり、玄関へと駆け出す。流石にゆっくりし過ぎたと後悔しながら、玄関脇に置いてあった学生鞄とテニスバッグを持って扉を開ける。私が入っているテニス部の顧問は遅刻に厳しいのだ。前に寝坊して遅れて行った時には罰として1人だけグラウンドを20周させられ、それだけで朝練の時間が終わってしまったくらいだ。
当然他の部員の注目も集めたわけで……。
「もうあんな恥ずかしい思いは絶対イヤ!」
急ぐ私が玄関を出て10メートルほど走ったところで、後ろの方からお母さんの声がした。
「綾!」
「なにっ!?」
部活に遅れそうになっている焦りから振り返った私は声を荒げる。急いでるのに一体何だと言うのか。
「お弁当、忘れてるわよ!」
「……」
結局その日の朝練は、またグラウンド20周で終わった。
藤崎綾(ふじさきあや)。
それがお父さんとお母さんが生まれたときに付けてくれた私の名前だった。
兄妹はいないけど18年もの間2人は私を大切に育ててくれた。
優しくて綺麗で大好きなお母さん。昔から街の人達の間で美人として有名で、お父さんと結婚してからは家事と子育てに専念してるけど、その前はスイミングインストラクターやライフセーバーの仕事をしていたらしい。そういった経歴なのであればあのスタイルの良さも納得できる。
そんなお母さんの心を射止めたお父さんはと言うと、仕事が忙しく平日は夜遅くまで帰ってこない日がほとんど。今週に至っては出張で海外に行ってしまっているため最近はあまり会話ができていない。
けれど別に親子仲は悪いというわけではなく、出張に出掛ける時もお土産は何がいいかを話すくらいには打ち解けている。
本音を言うならば、昔みたいに家族みんなでご飯を食べたり出掛けたりしたいけれど、それは我儘というものなのかもしれない。
お父さんが働いてくれているおかげでお母さんと私も不自由せずに食べていけるのだから。
(そういえばお母さん、大丈夫かな。)
授業中にふと今朝の会話を思い出し、家で家事をしているはずのお母さんに想いを馳せていた。
「ふう……こんなところかしらね。」
娘の綾を見送った後、母・沙知絵(さちえ)はひとまず日課の食器洗いと洗濯物を済ませ、休憩がてらにリビングでテレビ番組を見ていた。ソファに腰掛けている彼女は肩の出た白のブラウスにプリーツスカートと比較的ゆったりとした服装をしており、それが彼女の普段のスタイルのようだ。胸はブラウスの生地を大きく押し上げており、お腹できゅっと締まったかと思うと今度はスカートに包まれた豊満なお尻が女性らしい美しいくびれを作っている。女性なら思わず嫉妬してしまうほど見事なプロポーションを、1児の母でありながら彼女は保有していた。当の本人はそんなことを笠に着るどころか誇る素振りすらないが。
そんな彼女がふとテレビから視線を外し時計を見ると時刻は11時を過ぎようとしていた。
しまったと沙知絵が目を見開く。綾が時間にやや無頓着なのはこの親あってこそなのだろう。
「お昼ご飯、どうしようかしら。あと夕飯の買い物もしておかないと……」
とりあえず近くのスーパーに行く準備をしようと思った沙知絵がソファから腰を上げたその時、異変は起きた。
彼女は膝に両手を置き、立ち上がろうとお尻を持ち上げたが、何故かその屈んだ状態のままで動きを止めてしまう。
「──っ、──っ……!っ!!」
いや、よく見ると小さく震えていた。その表情に変化はなく恐怖や苦しみの色は表れていない。だが、何かに抗うように口は半開きのままふっくらとした唇だけが小さく揺れていた。
「お゛っ……」
生理的な嗚咽とともに突然、ぐるん!と白目を剥く。同時に本来なら理知的な彼女の表情からまるで人格そのものがシャットダウンされたかのごとく一切の知性の気配が失われた。
突如マネキンのように硬直してしまった沙知絵だったがそれも長くは続かなかった。
停止していた沙知絵の肉体が再びビクンと震えると膝の上に置いてあった両手が制御を取り戻したかのようにギュッと握り拳を作った。
そして、何も言わずにその手をゆっくりとお尻に回すと、そのままソファに勢い良く腰を落とし、反動で豊満な胸がぶるんと揺れる。
当然両手はお尻とクッションの間に挟まれたが沙知絵がそれを気にする様子はなく、それどころかスカート越しにお尻を揉み始めていた。
「んふっ♪」
少し乱暴に揉みしだくと嬉しそうに笑みをこぼした沙知絵。
その瞳には既に知性の光が戻っていた。