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【憑依モノ祭り6日目】ずっと何者にもなれなかった

作者:八衣風巻(エビ)
作者コメント:憑依祭りと聞いて我慢できずに駆け付けた一般海産物。

 男が気付いたときには辺り一帯は日の光の恩恵が過ぎ去ってしまった後で、陸風が枯葉を転がす乾いた後を聴きながら、かすかに残る橙色の空を頼りに見慣れない街の景色の中で一人佇んでいるという、なんとも奇妙な状況に置かれていた。
 いや、見慣れないというのは違う。
 眼前の寂れた小さい公園のブランコから目線を外し、後ろを振り返ってみれば小都市にしては高い八階建ての廃ビルがのっぺりと構えており、その入り口には立ち入り禁止のテープと柵が物々しく人の立ち入りを拒んでいた。
 工事業者の告知の張り紙がされているため、近々取り壊されるのだろうということがわかるが、明らかに民間業者のものではない、言ってみれば警察の調査痕がまざまざと残されていて、当然の如く灯りも何も存在しない巨像が、まるで夜の町にぽっかりと空いた黒い穴のようになっているのと合わさり不穏な雰囲気を振りまいていた。
 男はこのビルに見覚えはある。なぜ自分がここにいるのか、見知らぬ街でなぜこのビルを覚えているのか。少し考えてみるとあっさりとここに至るまでの道筋が男の記憶に甦ってきた。
 男は今年三十路になるかならないかの年齢で、ありふれた一般社会人として生を歩んできた。ところが勤めていた会社が倒産し、前触れも無く社長の口から伝えられたものだから、明日以降の未来が全く見えなくなってしまったのだ。この年になるまで何かをしたわけでもない、何かができるわけでもない。何者にもなれないことは自分自身がよく知っている。途方に暮れるほどの絶望にあても無く彷徨いつづけ、このビルから身投げをし、コンクリートで舗装された道を墓標にすることを選んだのだった。
 屋上には入れなかったので最上階から飛び降りることにしたのだが、その一室の床には深く掘り込まれた傷があり、確実に意味が込められているだろうその幾何学的な模様について、まともな精神状態で時間が許されるのであれば悉くその意味を探求したのだが、心が既に浮世から旅立っていた男の目には、ただの飛び込み台としか映らなかった。
 窓枠に手をかけたところで連続した男の記憶は途切れたのだが、その後のことは、その窓直下に近づいて足元を見れば分かった。
 抜け落ちていた直近の記憶が不意に再生されると、男がここにいる理由に納得がいったが、『彼がまだここにいる』ことが不自然に思えてならない。男の意識はとうの昔に旅立ち、向こう岸にいるはずなのである。
 ドラマや映画の中にしかいないと思っていた幽霊になってしまったという事実は、中々現代人にとっては受け入れがたいものだったようで、男は暫く頭を抱えて蹲ってしまうのだった。

 起こってしまったものはしょうがないと気を持ち直し、今考えるべきは今後のこと、そして何より現状把握だと男が勢いよく立ち上がると、こちらに向かって歩いてくる誰かが見えた。
 紺色のブレザーとスカートは特筆するものでもない平均的な高校生の着用する制服で、学生鞄を肩に掛けずリュックのように背負っている。両腕で紙袋をかけていて、それには名前をよく聞く書店のロゴが印刷されていた。特に気にかけるほどでもない、ごく普通の高校生だった。
 だが、男の意識は彼女の身なりに完全に意識を奪われ、身体はモニュメントのように硬直してしまった。
 ぱっちりした目によってやや幼い印象を受けるが、間違いなく美しいに分類される顔立ちは男が見た中でも間違いなく上位に位置する。後頭部で縛られている清流の様な黒髪も肩甲骨に届いているためそれなりの長さがあり、かなり入念に手入れがされているだろうことがわかる。
 やや上がった口角が天使の羽根のように柔らかさと太陽のように漲るエネルギーを象徴していて、まさにこの世に迷い込んだ女神に違いないと男が錯覚させられるほどであった。
 そんな存在に出会ってしまったのだから、身動きが取れなくなってしまっても誰も文句は言わないだろう。だが、二人の距離があまりに近づきすぎてしまったのは、大問題だ。
 男が金縛りにあっている中でも、彼女の歩みは止まらない。それもそのはずで、しっかり前を見据えていても、霊体を只人が見ることは能わず、男が目の前で立ちつくしていることを知覚できないのである。彼女からしてみれば、人のあまりいない道を通るのはやや不安だが、この道は何回も通っている近道でそれほど距離も無く、現に自分以外に人の気配が無いのだからいつもの帰り道だと、何ならだれも見ていないので自作の鼻歌でも歌ってやろうか、といった具合なのだ。
 二人の距離があと数歩分まで縮まってようやく男の意識が再起動したが、もはや回避動作を取る猶予はない。なぜ女は前を向いているのに進路を変えようとしないのか、と男が思ったところで自分が幽体になっている事を思い出し、そしてぶつかってしまったらどうなってしまうのか、という恐ろしい疑問を浮かべた。
 そもそも無機物相手にも自分の身体の透過を試せていないのである。昔見たドラマでは、生物には一切干渉できないパターンが多かったことが男の知識にあるだけだ。
 衝突の瞬間、男は目を瞑って小さく悲鳴を上げる。何事も無く少女が通り過ぎ、再び静寂と言う安息の環境を得ることを祈りながら。



 男はじんわりと身体に熱がこもっていくのを感じ、それから馴染のある鼓動を耳にして深く息を吐いた。
 幽体になってからやけに薄ら寒かったことも今更自覚したが、それを考えてみると、今や指先まで浸透した温かさがどうして自分のものになったのか、そしてもう一つ、する必要のない呼吸を自分はなぜ行ったのかという、至極当然の疑問を抱いた。
 体に重みがあるというだけでなく、男の生前の格好では得られなかった感触を全身が送り出してくる。目を閉じたままでは到底いられず、視界を開けばいつの間にか男は俯いていて、右足のつま先を少女が抱えていた本屋の紙袋が占領していた。そして圧倒的に違和感のある情報が、男に与えられるのだった。
 ややつま先に重心が乗っていたのは、ローファーの靴底のせいだろうか。黒いハイソックスの締め付けもどうにも居心地が悪く、膝と同じかやや上に上げられたスカートの裾が風に揺れて肌を撫でるのもこそばゆい。
 そう、スカート。男性でもスカートを着る文化が欧州には存在しているという伝聞はあったが、ここは日本だ。男に女装趣味があるわけでもないし、何かの罰ゲームでない限りは一生縁のない、身近で遠い衣服のはずだ。それが何故自分の腰に巻かれているのか。
 中身も立派に女性もので揃えられている。秘部を隠す下着の圧がデリケートゾーンに密着し、その上から防寒の為かスパッツか何かが覆いかぶさっていて、太ももの辺りまで防御している。
 胸部に何かを巻かれているというのも、よほどの趣味を持っているのでない限りは体験できるはずもない。更に言えばブラが自分の胸を支えているというのは、男である限りまず体験のしようがないものなのだ。

「えっ……はっ……?」

 膨大な見知らぬ情報に寡黙だった男も思わず声を上げるが、その透き通った高い音色も明らかに自前のものではない。目の端に移る黒い幕が顔を動かすとそれに合わせて波打ち、背中の一部に乗っている僅かな重みも動きを見せる。
 後ろ手で掴んでみればそれは自分の頭から生えているようで、頭皮が引っ張られる不快感が髪の毛であると自己主張をする。髪の一本一本が指の間をすり抜ける度に程よい心地よさが神経を伝い、眉や頬のあたりを撫でる正体を探ろうとすると、同じように頭に反応がある。
 シャンプーの清らかな香りが顔のすぐ傍から漂ってくるのも、襟と首の間の空気がまるで男のそれとは異なっているのも、冷汗を促す要因にしかならなかった。

「……いやいや、まさかそんなはずは、そのパターンなのか?」

 焦りや恐怖よりも、正解の選択肢に驚くことが先行して平坦なトーンで男、いや少女が呟く。
 なぜかスムーズに場所を探し当てられた手鏡を開き、恐る恐る自分の顔を映せば、

「さっきの子だ……」

 男の心を奪っていった美少女が顔を青ざめ、せっかくの美貌の彩度を落としているのを確認することができたのであった。

 自分が死人となり、まさか他人に憑依し体を乗っ取ってしまうところまではなかなかに予想できないものだが、意外と男の内心は平静を保つことができていた。いや、一日のうちにあまりにも衝撃的な事件が起こりすぎて、感情を露わにする能力が麻痺をしているだけなのかもしれないが、男の元の性格がかなり静かで、かなり冷めた視線で周りを見るタイプだったこともかなり加味されているだろうし、男自身が気付いていない、氷で閉じられた湖のように深く謎めいた欲求が芽吹きだしたのかもしれない。
 男は止まりかけた思考をもう一度回すために耳を澄まし、深く息を吐いた。心臓が血液を送り出すリズムが徐々に大きく感じられるようになり、速やかに意識を周りに向ければ男は大分現状を客観視することができるようになっていた。
 とりあえずここを移動しなければ、少女の滑稽な姿を近隣住民に晒してしまいことになるため、彼女のためひいては自分の為にもとりあえず移動しながら色々思考していくことに男は決めた。
 さて、自分はこれからどうやって立ち回るべきか。と言うのが目下の議題である。
 あまりに非現実的だが、男はどうやら少女に憑依してしまったらしい。少女本来の人格が再び目を覚ますかどうかまだわからないが、仮に目を覚まさなくても、まだ生きて、存在している少女という皮を手に入れたのだから、どうにかして彼女と言う存在は存続させなければならない。
 だが、それは苦難の連続だろう。当事者はわりと素直に現実を受け入れてしまい、科学だのオカルトだのというものはすべて吹き飛んでしまっているが、他の人間にとってはそうでは無い。
 もし仮に少女が『自分の中身が赤の他人、しかも男にすり替わっている』などと言い出せば、両親に泣きながら精神病棟へ押し込められるのは想像に難くない。かと言って少女の中身は現在どこの馬の骨ともつかない男なのだ。十数年生きてきた彼女の積み重ね、過去や記憶を継承しているわけでもないのに、彼女を偽ることはできない。
 彼女の今の何もかもを捨て去り、第三者としての立場を得るのも一つの手だが、少女の家族と友人という大勢を不幸にしてしまうためそれは即座に却下される。かなりの大騒ぎになるだろうし、無事に新天地に辿りつく保証もないのも向かい風だ。
 何より、少女の人生を奪うつもりなど元は存在していなかったのだ。憑依状態がいつまで続くのかは定かではないが、少女の全てを台無しにするつもりはない。
 ここはしばらく、彼女の振りをして生活を続けるしかない。となれば、男が向き合う課題は一つ。

「この子の記憶か……それさえあれば当面はしのげそうだが」

 眉をしかめつつ、身体が自然に降りた駅の改札を出て、手元のスマートフォンで現在時刻を確認する男だったが、

「待って、ここどこだ」

 あまりにスムーズに、無意識下で行っていたがためにスルーしかけていたが、男が行動を開始してから発生していた異常に、ようやく本人が気づいた。
 男は『少女がいつも乗っている路線を使い、彼女の家の最寄り駅をわかった上で降車し、指紋認証ではなく英数字を使ったパスワードのロックを解除してスマートフォンを確認した』のだが、これは男が知りえない少女の記憶を使わなければとることのできない行動だ。
 これが意味することは一つ。

「もしかして、この子の記憶、読めるんじゃ……」

 勿論、この程度意識をしている方が難しい行動なので、ただただ無意識に動いていたら勝手に動いていただけという可能性もあり得たが、試行してみなければわからないことでもあった。

「……大空、みらい」

 喉の奥の辺りから何気なくこぼれた名前が、少女の耳から後頭部へすんなりと入っていくのを男は感じた。携帯しているはずの生徒手帳や、スマートフォンに保管されている個人情報などで答え合わせをするまでもなく、それが自分の、新しい名前だというのが生まれる前からそうであったかのような、途方もない安心感が少女の胸を包んだ。
 口角がつり上がるのを彼女は自覚したが、まだ駅前というかなり目立つ場所に突っ立っていたことから遠巻きに訝しむ視線が少なくなく、それでいていかにも怪しい表情を浮かべてしまったものだから更に奇異の色は増していく。
 自分に注がれる視線が少女の頬を赤らめて、逃げるように走り出した。勿論、大空みらいという名前に付随していた彼女の住所と、通学路の風景の記憶を辿って。
 傍から見れば、一人の少女が学校の帰り道を急いでいるだけに見えることだろう。その実、少女の日常を死人が蝕んでいるということには気付かないままに。
 このままみらいの人生を乗っ取り、異性ライフを平穏に送りたいところだが、男がみらいの記憶を読むことで新たに浮上した問題がある。それは彼女の振りをできるだけのシンクロを得られないということである。
 少女と、周りの親しい人間の基礎情報は本を読むように引き出すことはできるが、果たして完璧に大空みらいに成りすますことができるかと言われればそこまでの順応には辿りつけていないため、言葉遣いや性格は男の時のままだ。
 みらい本来の人格はかなり明るかったようで、暗いとまで言えるほど落ち着いた性分の男とは真逆のキャラなのも更に演技の難易度を上げていた。少しでも男の地を出してしまえば、大問題を誘引しかねない。
 男もみらいの脳も天才とは程遠い知能だったため、一日や二日では解決策を捻りだすことができないのは自覚の上。とりあえず男は、調子が悪い振りをして引きこもっていれば多少人が変わっても怪しまれる可能性も少ないはず、という考えの下で時間の引き延ばしを図ることにした。
 大空みらいは現在受験生らしく、この時期の学生と言えばかなりナーバスになることも珍しくない。第一志望に対する熱意もそれなりにあったようで、その反動もいつか必ず彼女に訪れたであろう。それを先払いするだけだ。
 仮病を使っている間に消費する食料を通り道のコンビニで買い込み、いよいよみらいの家についた男は、徐々に張ってきた心臓から必死に意識を逸らしつつ、玄関のドアを開けて『帰宅』した。

「た、ただいまー……」

 もはやみらいだけでなく男の自宅でもあったが、人の家に忍び込んでいるという気分にしかなれず、体調を崩してしているという演技をしているのもあって、か細い声しかみらいは上げられない。

「おかえりなさ……どうしたの、大丈夫? 何かあった?」

 リビングに入れば母親が食事の支度を終え、調理道具を片付けているところに出くわした。肉親との対面に男の緊張は最大値にまで達したが、おどおどしている様子が丁度具合が悪そうにしていると見えたのか、不審がる様子も無くむしろ心配そうに眉を下げる母親に張った糸が少し緩んだ気がした。

「ごめん、さっき急に気分が悪くなって……ご飯もいらないから」
「あらら……模試も近いんだから体大事にしないと……今日はゆっくり休みなさい」
「……うん」

 母親が娘の異常に気付いている様子はなさそうだが、あまり長く話しているとボロが出かねないため、速やかに二階にあるみらいの部屋へ向かう。

「お風呂はどうするの?」
「とりあえずはいい」

 本当にいい親なのだろう。かける言葉や言葉尻に慈しみが目一杯込められているのが、ほんのわずかな会話でわかってしまう。まだ帰宅できていない父親に対する好感度も、みらいの記憶ではそこまで低くなく、概ね良好な関係を築いているのだろう。
 そんな家庭の、かけがえのない宝を奪ってしまったことに対する罪悪感が生まれなかったと言えば嘘になるが、男が持ち得なかった、選ぶことも許されなかった環境に浸れるという愉悦に紛れて霧散してしまった。
 自室に飛び込んで間髪入れず鍵を閉めた男は、とうとう少女の秘密の園を我が物として振る舞える喜びを叫んでしまいそうになったが、知ってはいたが実際目にしたことが無い私物、その数々が与える不思議な新鮮さに言葉は失われてしまった。
 衣類棚を漁れば当たり前だが女性用の肌着やハンカチなどの小物が並び、下着の中にはかなりきわどいものも混じっていて、着用したところを想像するだけで顔が紅蓮地獄になってしまうほどだった。
 クローゼットの中にも膨大な量の衣類が押し込められていて、この中から着るものを選ぶとなると、半日ぐらいは余裕でかかってしまうのではと懸念してしまうほどだ。
 服の物色を切り上げて、小さいが一応存在している本棚や机の中をひっくり返してみたい衝動はあったが、スカートやホットパンツなどを履いているみらいの身体を想像してみると、自分の身体が女のものであるという状況に興奮しつつあることに男は気づき、壁に掛けられた姿見に映る美少女の姿を一度見てしまえば、次なる興味の行き先は自ずと決まってしまうのだった。
 廃ビルの外で一度確認しているし、手鏡で顔周りもまじまじと見てはいたのだが、改めてみらいの全身を観察してみると、その美貌はやはり、思わずため息が漏れてしまうほどだ。
 ブラでしっかり押さえられていて気づかなかったが、ブレザーの上からでもそこそこ胸があるのがわかる。みらいはどうやらバドミントンを幼少のころから続けていたらしく、引き締まった体のシルエットが彼女の発育の良さを強調している。
 そして彼女本来の表情は明るく、太陽のように周りにも元気を配れるような性格となれば、かなりモテたに違いない。朧げな記憶の彼方に、同じバドミントン部の男子と付き合っていた頃のものがあったが、みらい自身はそれほど乗り気ではなかったようだ。
 髪を解いてみると雰囲気は大人びたものに変わり、ややダウナーな今のみらいの面持ちにかなり相性がいい。あまりの顔の良さに気恥ずかしくなって、髪を指で遊ばせる仕草が彼女の幼さを露出させ、そのギャップがたまらない魅力を放っていた。
 鏡の前で制服のままあれこれポーズを取るのもよかったのだが、次第に男の興味はヴェールの奥へと、聖域に移り始めていた。
 ブレザーと中に着込んでいたセーターを脱ぎ、ブラウスのボタンをはずしてブラときめ細やかな肌を開放すると冷ややかな空気が臍を撫でてくるが、その手つきすら男の息を荒げる要因になってしまった。

「んっ……これは……」

 何度か手を開け閉めして、意を決して自身の胸を優しく鷲掴みにすると、ブラをしていたためか覚悟をしていたほどの触感は得られなかったが、乳房が付属品などではなく確かに自分の一部として存在しているというのは実感ができた。指に帰ってくる弾力が、完全に無防備になった時を心待ちにせよと語りかけてきてもいた。
 ブラウスを脱ぐのにスカートが邪魔になったために、慌てて留め具を外し床に落とすと、太ももから親指の先のラインの妖艶さに今しがた抱いていた衝動を忘れ、内腿に思わず男は手を這わせてしまう。

「これは……エロいと言わない方が失礼に当たるな……ははっ」

 バドミントンでしなやかに育った筋肉と脂肪が意外にも競合することなく、情欲云々以前にかなりの触り心地の良さを実現していて、放っておけばいくらでも触っていられそうだったが、当初の目的を思い出してなんとか掌を上昇させることに成功した。

「まだだ……まだ、そこは最後のお楽しみだからな」

 鼠蹊部の辺りを人差し指が通過する時、下腹部から違和感が声を上げた気がしたが、みらいの綺麗な唇を下卑た笑みで歪ませながら深淵の誘惑を回避する。
 余談だが、男はメインをつまみ食いせずきっちりと最後まで取っておけるタイプだった。みらいは、やや我慢が足りないようではあった。テンプレの如くイメージ通りという奴である。
 ブラの外し方は身体が覚えていたので、ブラウスをベッドに放って気が付けば彼女の手にはまだ温もりが残っている胸部装備が握られていた。意識して外せるようにするのも面白いかもしれない、なんてことをぼんやりと男は考えもした。

「……あっはぁ、マジだ、マジでおっぱいだよ……俺におっぱいが……!」

 感極まって声を震わせてしまう男だったが、以後の人生で恐らく二度と拝むことができないだろうと思っていた輝きが、綺麗なピンク色の突起を豊満な山脈が支える絶景が今自分の手元にあるのだ。しかも、自前である。これはおそらく、男連中だけではない。女の中にもこれほどの宝を羨む層も確実にいるだろう。それが、胸に手をやるだけで簡単に届いてしまう。男は別に胸の大きさなどどうでもよいと思っていた層だったが、それを覆すほどの感動に揺さぶられているのである。咽び泣かないだけ理性が働いている方だと言える。
 恐る恐る、手のひらで包み込むように今一度双房を揉んでみるが、

「ふっ……んんっ……直で揉んでもそんなに感じないな……触られてるのは分かるけど……自分で揉んでるのがダメなのか? 人に揉んでもらわないとダメ? いや、そもそもの問題か?」

 指先から伝わってくる情報は間違いなく極上の一言なのだが、肝心の胸にはこれと言った刺激は与えられていないようだった。

「まあ、風の噂程度で『胸は揉まれてもそんなに気持ちよくない』とは聞いていたが……、この際、そういう類の噂の真偽を確かめるのも悪くないか……ふぅ……」

 肩透かしを食らって少し気分を落ち込ませる男だったが、それでも揉み心地が至高なのには変わりがないのでぼやきながらも手を止めることはなく、試行回数が功を奏したのか男の興奮に引きずられてなのかはわからないが、臍の下は順調に熱を帯び始めていた。
 思わず湿った吐息がこぼれる度、脈動に合わせてその熱が全身を巡っていくような感覚があり、みらいの体の準備も整いつつあるのが嬉しくてたまらなかった。

「ま、今はダメでも開発って手があるしね。時間はまだたっぷりある……んっ……ククク」

 左手は恥丘を弄るのを続けながら、右手を色気づいた手つきで滑らせる。ちらと臀部の事がチラついたが、遠回りができるほどの余裕はもうない。子宮の辺りから伝播した熱はもはや全身を巡り、お預けを食らった哀れな秘所は留処ない欲望を掻き立てる扇動者に成り果てていた。
 まだ残されていたパンツの、一枚の布の上から入り口からまだ遠い場所を撫でただけでボルテージが一段階上がったのを感じてしまうぐらいには、もう準備の方は出来上がってしまっていた。

「ごめんね、みらいちゃん……今から君を滅茶苦茶にするよ……。でも大丈夫、滅茶苦茶になった身体は僕が責任をもってちゃんと引き継ぐからね」

 焦らすようにねっとりとなだらかなラインを撫でると、湿気が布をすり抜けてじんわりと指の腹を舐めていった。
 慌ててパンツの中をのぞき込めば、幽かに染みが浮き出ている。

「ああっ、興奮しちゃってる! みらいちゃんの身体が、みらいちゃんの身体で興奮しちゃってる! ごめんねえ、自分の身体でおまんこ濡らしちゃう変態さんになっちゃって……俺が、私だって思うだけで溢れそうになっちゃう、ハハッ!」

 秘所の周りは既に興奮汁でぐしょぐしょになっていて、一度刺激すればこぼれてしまうことは必至だった。
 離れていても匂ってくる濃厚なメスの匂いに前頭葉が機能を停止していくのを男は実感した。セックスに狂う人間の事が前世ではついぞ理解が及ばなかった彼だったが、ここに来て、原始の渇望にして最大の熱望に身を任せる悦楽というものの片鱗を味わうことによって、みらい本来の欲望そのものも歪んでしまいそうな激情に駆られる。

「入れちゃうよ、いい? 返事は効かなくてもわか……おほぉっ!」

 前戯の事を忘れ去ったみらいの示指と中指を、みらいの膣が受け入れた瞬間。体の中を異物が掻き分ける違和感を押しのけて、微弱な電流が背筋を駆け上る快感がみらいの脳に打ち込まれた。
 単なる指を一物だと勘違いして必死に喜ばせようとする肉壁が愛おしくてたまらない。何度も出し入れして、指の形を変えたり、振動させたりとあらゆる手管を使って子宮を喜ばせようと試みる。

「このままでも十分んんっ、気持ちいいけど……やっぱ、あっ……ディルドとか使わないと子宮口までは届かないか……えへっ、おっ……ここ、ここ気持ちいい、ここすっごい痺れちゃぁぁぁああああ!」

 みらいの身体が一際大きく痙攣したかと思うと、彼女は天を仰いだまま暫く身動きを取らなくなってしまった。
 不規則に息が洩れ、ようやく大きく息を吐いたかと思えば、みらいは数歩よろめいてベッドに倒れ込み、恥部に指を加えさせたまま数度寝返りを打った。

「これが女の子の絶頂、これがメスのイキ方、男には味わえない、体の中から湧き上がる快感……!」

 彼女の身体は知っていたはずの、男の精神が未経験だった女の絶頂を体験して、言葉が詰まってしまうみらいだったが、これ以上の感想は不要だった。恐ろしいほどの達成感と、いまだ治まることのない疼きが、彼女を次のラウンドに誘っていたからだ。

「そういう玩具には興味が無かったから持ってなかったけど、今度頑張って買ってみよっかな……ってあれ、なんか変な感じがする……ま、いっか」

 絵具を混ぜ合わせるが如く、自分の中で何かが変わり新たなものが生まれた様な気がしたが、みらいはとりあえず、この低俗で極上の一人遊びを心行くまで堪能することを優先した。

「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁああああああああああ……」

 寝返りを打つたびにみらいの長い髪が広がり、ベッドに鼻を押しつければ自然と彼女の絹の様な髪にも顔を押しつけることになるのだが、頬が、唇が、鼻先が、瞼がその感触を喜んでいた。時折髪を掻き抱いて、その肌触りを満喫するのが癖になってしまそうなほど。
 寝床に沁みついた彼女の匂いと、みらいの身体から漂ってくる女の子の香りが混じって一種の麻薬の様な作用を引き起こし、とても美少女とは思えない表情になっているのを、みらいが見ることができないのは幸運ともいえた。
 指のピストンを再開するが、女には快感を得るためだけの部位があることを思い出してしまったみらいは、いやらしい音を立てながら膣から指を引き抜くと、暫し指を遊ばせて愛液の肌触りを楽しみ、いよいよその矛先を陰核に向ける。

「ああ、いよいよだ……正直怖いけど、ここまで来たらもうどうしようもないよね」

 まるで淫猥な指を迎えるフラッグみたく充血しきったその頂につま先が当たった瞬間、

「っ……ぃっ!?」

 みらいの意識が一瞬にして明滅し、肺が新たな空気の供給を拒んでしばらくの間のけ反ってピクリとも動かなくなってしまった。
 後頭部から脳の全体に走る稲妻が、みらいの瞼の裏にも映ったような気がした。みらいの身体も体験したことが無かったかもしれないその輝きに、脳がじわじわと泡立っていくのを幻視してしまう少女。無論元男の精神がまともに耐えられるはずもなかった。
 全身の硬直が溶けると、間髪入れずにクリトリスへの愛撫を試みるみらい。

「しゅ、しゅごい……こんにゃの……こんなのもう一回死んじゃいそうだよ」

 どうやら超弩級の刺激も慰めを躊躇させる方には働かなかったようで、逆に箍を外してしまったみらいの本能が彼女の身体の操縦権を完全に掌握してしまったようだ。
 摘まんだり引っかいたりするたびに意に反して腰は飛び跳ね、畜生並みの呻きが彼女の歯の間から流れ出ていく。
 あまり声を上げてしまうと家族にこの惨状を目撃されてしまいかねないのだが、そんなリスクは今のみらいにはほんの些細な、男だった時の人生の様な塵芥にしか思えなかった。

「も、もう一回イク……イッた!! ああああああああああああああ、今イッてるよ私!」

 今度は断続的に、絶頂の振れ幅はさっきよりも大きく、より長い時間をかけてみらいの自我とメスの部分を蹂躙していく。意識が飛んでいくことは無かったが、勝手に振動する下半身といつの間にか垂れていた涎と涙をぬぐうことも、そもそもいつの間に顔をぐしゃぐしゃに汚しきっていたのか、その起源を辿ることもできなかった。
 はてさて、理性が機能していないのになぜ男の一人称が『私』となっているかはさておき。

「まだおまんこ治まんないよ……凄い、男の時は一発抜いただけで満足しちゃってたのに、女の身体っていつまでも達せそうだ……」

 蜜を留処なく放出し続ける穴倉を掻き混ぜつつ、にじみ出てきた汗の匂いを堪能して顔をだらしなく緩ませるみらい。
 二、三度軽い絶頂を続け、流石に激しく動くことがつらくなってきた彼女は、ようやく激しい『運動』をやめて指を下半身に絡ませることを切り上げた。

「ん? んー……あれ?」

 切れた息を落ち着かせるために何度か深呼吸を繰り返す間に、ようやくみらいは自分に訪れた異変を察知した。

「私の記憶……私、じゃない。みらいちゃんの記憶……まるで自分の事みたいに……さっきまでとは全く違う。でも男だった時の記憶も残ってるし引き出せる。でも、意識しなくても私の事を思い出せるし、いつも通りの私みたいに振る舞える気がする……!」

 ただの記事の羅列の様なみらいのことが、まるで自分の事のように感じられるようになり、体がへとへとなのにも関わらずみらいは踊り狂いたいような気分になったが、結局疲れ切って思うように手足が動かないので踊ることは諦めた。
 だが、みらいの今後の動きを考えるにあたって、最も重要で難関だった問題に最適解が用意されたのである。これを喜ばずしていつ喜怒哀楽を表現しようかと言ったところである。
 母親には気分が悪いとは言ったが、受験生であるみらいの為にも学校を休むことは極力控えたい。久々の学生生活とやらも楽しみだし、彼女の記憶の中にある友人らの中にも、かなりレベルの高い子がいるので、その子とも『仲良く』してみたい。
 兎にも角にも、就寝前には一度シャワーを浴びたかったので替えの下着とパジャマを準備し、その慣れた手つきにも思わず笑みがこぼれてしまう。

「ふふっ……心配しないでね、私。これからも『大空みらい』は精一杯、悔いのないように生きてあげるから……」

 何者にもなれなかった男は、全く違う人間になり果ててその人生を奪っていってしまった。何者かになりたかったという、内にいる獣の叫びを知らぬ間に叶えた彼から、罪悪感が消えるのにそう大して時間はかからなかった。
[ 2020/12/10 18:00 ] 憑依モノ祭り(憑依ラヴァーver.) | TB(-) | CM(0)
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プロフィール

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