続きです。できればもう少し工夫したかった。
最近矢田がおとなしすぎる。
生徒会長の秋山詩織は就寝前にベッドで横になりながらそう思っていた。パジャマ姿の彼女は目覚まし時計をセットすると、目を瞑って考える。今までの彼の行動から見てこれほどの長い間誰にもちょっかいを出さないのは妙だ。彼は狙っていた獲物を一通りいたぶり終えると数日のうちにターゲットを変えてきた。だがもう二週間も目立った動きがない。もし相川のことを諦めたのなら今頃新しい被害者が出ているはず……。ならば考えられることはただひとつ。
「矢田和也はターゲットを変えていない」
確信を持って小さくつぶやいた瞬間だった。
「その通りだぜ、秋山」
「!?」
自分以外がいるはずのない暗い自室のなかで聞き覚えのある男の声が響いた。急いで身体起こし、部屋を見回すが誰の姿も見当たらない。
「や、矢田君!?どこにいるの!?なんで私の部屋にっ」
誰もいない自室でいないはずの相手に問いかける。それに対して声の主はけらけらと笑い声をあげた。
「おいおい、いきなり笑わせるなよ。傍から見たら変人だぞお前。ま、もったいぶってもしょうがねえか。俺もお前と一緒にこの部屋のなかにいるぜ?もっと言えば……『お前のなか』にいる。乗り移っているとも言っていい。お前のカラダも、なかなか居心地いいぜ」
「私の、なか……?」
「ああ、その証拠に……もう自分の意思で動けないだろ?」
「え……?」
試しに右腕を上げようとした。だが、自分の意思とは裏腹に腕はだらんと下がったままぴくりとも動かなかった。自分の置かれた状態を把握した詩織の顔が一気に青ざめる。
「な、なんで……?動かない……」
「今お前の自由意思でできるのは呼吸と会話、そして目を動かすことだけだ。それ以外は俺が掌握させてもらったぜ、くくく」
「理解できない……どうやって『私のなか』に入ったって言うの!?何が目的なの!?」
自分の常識で推し量れない現象に心臓の鼓動が早まり、体中から嫌な汗が噴き出す。だが、肉体の自由まで奪われてしまった以上、この超常現象を現実のものとして受け入れる他なかった。詩織は得体の知れない恐怖を感じつつも、かろうじて平静を装い矢田を問い詰める。今の自分にはそれしか抵抗らしいことができないからだ。だが、矢田はそんな詩織を鼻で笑い捨てた。
「本当は内心ビクビクのくせに哀れだな。でもな、今お前はそんなデカイ態度を取れる立場か?あまりを俺の機嫌を損ねない方がいいぜ?その気になれば呼吸を止めて窒息死させてやることもできるんだ。よく考えてから話した方が良いぜ。それに生徒会長のくせに人にものを尋ねるときの礼儀を知らねえのは、いけねえよなぁ?」
「くっ……どうしてこんなことをするん……ですか……」
尋常ではない屈辱を感じながら渋々矢田の言葉に従う。彼女の命運は完全にこの男に握られてしまっているのだ。何事も自分の努力で成し遂げ、それに誇りを思ってきた詩織とってたったひとりの男を相手に手も足も出ないことが悔しくて仕方がなかった。
そんな詩織とは対照的に華の生徒会長を従えたことに多大な優越感に感じている矢田は満足そうに答えた。
「そう、それでいいんだ。弱いやつはおとなしく俺みたいな強いやつに媚びを売ることだけを考えろ。まずは方法だが、それを教える気はねえ。というかすぐに分かる」
「それはどういう……」
「人の話は最後まで聞けとママに教わらなかったのか?ひん剥いて町内を走りまわせるぞ」
「ひっ……ごめん、なさい……」
自由がきかないはずの身体がカタカタと震える。恐怖が自分の心を支配しそうになるが、
底知れぬ悔しさをバネにどうにか堪える。
(負けたくない。負けちゃいけない!)
「まあ、よっぽどじゃねえとそんな勿体ねえことしないけどな。何せお前には『協力』してもらわねえといけねえんだからよ」
「きょ、協力……?」
「ああ、お前の言った通り俺はまだ相川の野郎のことを諦めてねえんだよ。俺に歯向かったことを死ぬほど後悔するまであいつは逃がすつもりはねえ。でもよ、今までのやり方じゃどんなにやってもあのクソ野郎には全然響かねえんだよ。だからやり方を変えることにした。肉体をいたぶって折れねえなら別の方法で心をぶっ壊すことにした。そこでお前の力が必要になる」
矢田が自分の計画を披露する。なるほど、賛同するかどうかはともかく確かに理には適っているだろう。だがその過程で自分の名が出たことに驚いた。
「私の……?」
「そうだ。知ってるか?人間の心に大きなダメージを与えるのは『孤独』と『絶望』なんだぜ?お前はその役にうってつけなんだ。生徒会長の立場を使ってあの野郎の心をぶち壊すんだ」
ようやく話の本筋が見えた気がした。だが――
「私がそんなことに協力すると思ってるの?」
「……」
怒りがこみ上げる。たださえ矢田のこれまでの悪行は目に余るというのに、今度は自分もその片棒を担がせようというのだ。そして身体を人質に取っているのをいいことにそれをさも当然のように言う彼が許せなくなった。
「言っておくけどね、どんなに脅されても……どんな酷いことをされても……人を傷付けようとするあなたに手を貸すくらいなら退学になった方がマシよ」
「……」
何を思ったのか矢田は完全に沈黙した。先ほどまであった息が詰まるほどの緊迫感がなくなり、詩織にも少し余裕が出てくる。当然だ。誰がそんなことに手を貸すものか。矢田は自分を脅せば従うと思ったのか?それならば大間違いだ。
彼女には信念がある。人を傷つけるくらいなら自分が不幸になることを選ぶ。始めから矢田の企みは成立し得なかったのである。
詩織は一矢報いたことを確信し、黙ったままの矢田に追い打ちをかけるように続ける。
「さあ私を酷い目に遭わせるなら好きにしなさい。でもね、何があっても私はあなたには道具にはならない……!誰でも思い通りにできると思ったら大間違いよ、矢田和也!」
言った。言ってやった。これで自分は彼の餌食になるだろう。だが、自分の意思を貫き、誇りを守り通した。
彼女はそれだけで満足だった。
もう後悔はない。覚悟を決めた瞬間だった――
「くくっ……くくくくく……はははははははははっ!!!」
矢田が自分の頭のなかでけたたましい笑い声をあげた。
まるで自分の覚悟を踏みにじるように。自分の誇りをあざ笑うかのように。
「何がおかしいの!?」
突然態度が変わった矢田に詩織は焦りを募らせる。彼の思惑にはまだ先があるというのか。
「これが笑わずにいられるか。誰が『今のお前』に頼むって言ったよ?嫌々やられたってあいつに効くわけねえだろうが」
再び理解ができなくなった。矢田は自分を脅して無理やり従わせるつもりだったではないのか?いくら考えても納得のいく答えが思い浮かばなかった。
「どういうことよ!?言ってることが矛盾してるわ!『今の私』にできないならどんな私に頼むっていうのよ!?」
「ああそうだな……例えば、『俺に身体を奪われたお前』というのはどうだ?」
「なっ!?」
まさか身体に乗り移ったのはこのためか?肉体を奪い、自由意思とは無関係に好き勝手に操る。そうすれば詩織がどう思っていようと意味はない。矢田は思うがままに自分に肉体を使い相川を追い詰めていくだろう。頭のなかにはそんな最悪の結末が浮かんでいた。
「や、やめなさい!それは人として道に反してるわ!あなたはとんでもない間違いを犯そうとしているのっ。それに私だけを操ったところで相川君にはクラスのみんなや先生、それに山吹さんがいるっ、彼を支えてくれる人たちがたくさんいるっ。どうやったってうまくいくはずがないわ……!今ならまだ引き返せる……こんなことはやめてあなたも……ひぐっ!?」
言い切る前に身体がびくんっと跳ねあがり、手足が痙攣を始めた。しかし自分の意思ではどうすることもできず、為すがままになるしかなかった。
「うるせえんだよ。お前は黙って俺にカラダを明け渡せばいい。それと安心しろ……お前が思ってるより『もっと面白い事』になるんだからさ。くくく……さあ、おしゃべりはもう十分だろ?お前のカラダと培ってきた地位、『有効活用』させてもらうぜ」
矢田がそう言い終わった瞬間、再び身体大きく跳ね痙攣が激しくなる。自分のなかの一点に潜んでいた何かが水風船のように破裂し、体中を駆け巡る。自分ではないナニカが真っ白な紙に墨をぶちめけたときのように魂を真っ黒に染め上げていく。それはあっという間に詩織の隅々まで行き渡り――
「ひぎぃっ!?ああっ……や、やめて……ううっ……うあぁっ……あっ……あっ……あぁっ!?……ぁ……っ……」
彼女の存在を塗り潰した。
「……ふう……乗っ取り完了♪なかなかいい反応が見れて楽しかったぜ、秋山……って今は俺が秋山生徒会長か♪くくく……最高に気分がいいぜ。いつもいつも俺の邪魔ばかりしやがるこの女には一回教育をしてやりたかったからな」
そう言いながら自分の身体を見下ろすと、パジャマの上着を盛り上げる双丘がそこにはあった。試しに上から揉んでみると柔らかな感触が両手に広がり適度な弾力で押し返してくる。その矢田にとってその感触がとんでもなく嬉しかった。
「男の身体でなら女の胸を飽きるほど触ってきたけど、『自分の胸を揉む』ってのは何回やっても新鮮だな。揉む感触と揉まれる感触が同時に来て……んっ……んふ……気持ちいいぜ……はぁ……」
思わず艶っぽいため息が漏れる。だが聞こえてくる声は男の低いものではなく秋山詩織の透き通るような声のみ。それだけで矢田は意識が興奮し、詩織に身体を火照らせた。
「んっ……んっ♪……んんっ♪……ふふふ……イヤらしい声……私、興奮しちゃってる……矢田君に乗っ取られて身体を勝手に操られてるのに……嬉しくなってアソコがきゅんって言っちゃってる♡ あっ……!乳首が勃ってきちゃった……♪」
パジャマの上からはっきり分かるほど固くなった乳首が弄んで欲しそうに存在を主張する。
今度は指で挟みながら揉んでみると鋭い刺激が背中を駆け巡る。
「んあんっ♪あ……♪はははっ……乳首もイイ……な……んんぅっ……!それにしても秋山の胸って見た目より大きいな……着痩せするタイプか……んっ……俺好みだぜ……秋山…...ひゃんっ♪あっ……ああ~……♪」
コリコリっと摘まむたび勝手に声が漏れ、静かな部屋に響き渡る。それが更なる興奮を生み詩織の身体はあっという間に発情し、気が付けばアソコがぐっしょりになっていた。
「へへっ……自分をオカズにオナニーするなんて……とんだ変態女だな……秋山……いや、『私』は」
パンツのなかに手を突っ込み僅かに生えた陰毛をかき分け濡れそぼった秘裂に手を添える。軽く指でなぞると「くちゅっ」という水音と共に乳首以上の快感が駆け巡った。
「んっっはあああぁ~~っ♪すげえよ、秋山……お前真面目そうな顔してこんなスケベな身体してるじゃねえか。もっと前から目を付けておくべきだったぜ……さて、膣内の具合は……うひゃああっ!?」
割れ目を広げて指を入れた瞬間、足先から頭のてっぺんまで震えあがった。
「今の……よかった。気持ちよすぎて思わず指を抜いちまったぜ……もっと……もっとだ……んああ~」
欲望の赴くまま、詩織は指を出し入れする。膣内で擦れるたび絶大な快楽が身体を突き抜けていく。詩織は完全にその虜になっていた。
「んああっ!あっはぁ……♪あっ……あっ……ああっ!あんっ♪イイっ!秋山のカラダっ、イイっ!あ、あっ、あっ、ああっ♪も、もう……」
興奮が最高潮に達すると前かがみになって内股を閉じた。気が付けばもう片方の手で乱暴に胸を揉み、詩織の身体が発し得るだけの快楽を一心に貪り尽くしていた。
そしてついに快感が臨界点に達した。
「あん♪んはあんっ♪あああああんっ♪もうだめっ……!イクっ、わたしイクっ!ああっ♪あ♪あっ……♪はあああああああっ♡」
絶頂感が頭に真っ白な空白を作り背中を反って全身でその刺激を受け止める。あまりの快感に詩織はベッドを愛液で汚してしまった。
「はぁ……はぁ……さいこう……最高だった……何も考えられなかった……女のイク感覚……すげえ……普段は凛々しい生徒会長が自分をオカズにオナニーしたことを学校の奴らが知ったらどう思うんだろうな?ま、そんなこと気にしなくしてやるからいいけどな」
秋山は息を整え自分の手を濡らしている愛液を舐めとると、邪悪な笑みを浮かべ姿勢を直した。
「それじゃお待ちかね……『私の心』を作り替えるとしますか♪」
目を瞑ると大きく息を吸い、詩織の思考を呼び覚ます。
(矢田君は警戒すべき相手……)
その思考に対して矢田は上書きするように詩織の口を使って”訂正”していく。
『違う。私、秋山詩織は矢田君の奴隷よ』
(私は矢田君の奴隷……)
上書きが完了すると次の思考は呼び覚ます。
(矢田君に心を許してはいけない)
『いえ、私は矢田君に絶大な信頼を寄せています。彼のためならなんでもします』
(私は……矢田君に絶大な信頼を寄せています……彼のためならなんでもします……)
一字一句はっきりと。
(矢田君からみんなを守らないと……相川君に気を配らないと……)
『違います。矢田君の敵は私の敵です。特に矢田君に反抗した相川裕樹は憎むべき存在です』
(矢田君の敵は私の敵……相川裕樹は……憎むべき存在……)
それが決まった事実であるかのように次々塗り替えていく。魂に刻みつけるように。
(私は)
『私は』
(『私は』)――
――――
――――――
――――――――
「私は矢田君の奴隷。彼のためなら生徒会長としての立場を利用してどんな汚い手でも使い、奴隷としての責務を全うします。そして矢田君のために私は……『相川裕樹を喜んで地獄のどん底に突き落とします』」
再び目を開けた詩織は邪悪な笑みを浮かべ、確信を持って言った。
「ごめんね相川君。私、変えられちゃった♪」
それを詩織の身体を乗っ取った矢田が言わせたのか、詩織が自分の意思で言ったのかは定かではない。
ただひとつはっきりしていること。それは・・・・・・
悪意によって捻じ曲げられた心は、二度と元に戻らない。
次の供給までしっかりチャージしておかなければっ。
気高い精神の持ち主が鬼畜のような男に身体を乗っ取られ、その心まで作り変えられる。いいですぞ~。信頼している人間の中身がすっかり別人になっているなど露知らぬ相川君がこれからどれだけ追い込まれるのか、愉しみでなりません。
相川君、君に恨みはないが、我々の愉悦のためにズタボロになってもらおう……。