前作の半分後日談、半分続編のような内容です。
うだるような蒸し暑さ。ごった返す人。
何もかもが熱気を放っている。
拭いても拭いても汗が浮かび上がり次第にポロシャツに染み込んでいき、生地が肌に張り付いてとにかく気持ちが悪い。
8月某日。
片岡信二は一大同人イベントに参加していた。
大規模イベントだけあって数は少ないながらも、憑依を扱うサークルがいくつか参加しており、彼らの今後の創作活動を支援するため、もとい今後のオカズを確保するためにわざわざ早起きして参戦しているのだ。
開場から瞬く間に大ホールを埋め尽くした人々は時間の経過とともにさらに増えており、さながら満員電車のような様相を呈していた。一部エリアはあまりの混雑に人の動きが完全に停止し、スタッフは交通整備に走っているのが見えた。
「毎年毎年すごい人だよな。みんな戦利品ゲットに必死だ。」
何度か参加している信二は事前に回るサークルを確認し、入場からのルートを構築していたお陰で必要以上に揉みくちゃにされずに済んでいる。
だが、それでも気が付けば自分と他人の汗で全身べとべとになっており、早くも帰りたいという気持ちが募り始めていた。
「でも回りたいサークルが5つもあるんだよな……くそ、闘いはもう少し続きそうだ。よし……!」
「信二さん、戦果はどうですか?」
「うわっ!びっくりした!」
気合いを入れ直そうとしたところで後ろから声をかけられた。
驚いて振り返ると、そこにいたのは信二の"彼女"となった石原綾乃だった。
「あっ、ごめんなさい。たまたま見かけたので一度合流しておいた方がいいかなと思って。」
「い、いやいや、ちょっとびっくりしただけだから。」
実は信二はこのイベントに一人で参加していたわけではなかった。いまやすっかりオタク趣味に染められた綾乃と一緒に待機列に並んで入場し、手分けしてサークルを回っていたのだ。綾乃はアルファベット列のサークル、信二はひらがな列のサークルを回ることで効率的に薄い本を回収する算段だ。
「こっちは達成率半分といったところだよ。ここからもうひと頑張りすれば終わりそうだ。綾乃は?」
最初は小恥ずかしくて呼び捨てで言えなかった下の名前も、今となってはしっくり来る。
「私は7割くらいです!混んでるから仕方ないんですけど、皆さん私の胸が当たるたびに驚いた顔で半歩引くので結構通りやすくて。ちょっと身体を武器にしてるみたいで申し訳ないですけど今はありがたいですね。」
「綾乃みたいな美人がノースリーブTシャツとホットパンツで同人イベントに参加してたら誰でも驚くよ。その格好、狙ってやってるよね?」
「え〜?なんのことですか〜?私はただ暑いからこの格好で来ただけで、別に参加者の皆さんに自分のスタイルのいい身体を見せびらかそうなんてこれっぽっちも思ってないですよ?」
「わざわざカラダの線が出る服を着る必要はなかっただろ?オタクたちの注目を奪うせいでさっきからコスプレイヤーの嫉妬の眼差しがすごいぞ?」
「ふふ、魅力的なカラダだから仕方ないですもんね。それにしても、何人が私のことを思い出してズリネタにするんでしょうね。わざわざ胸の大きさを強調するために文字Tシャツにしたんですけど。」
視線を下ろすと、綾乃のTシャツの文字が伸びているのが分かる。豊満なバストが、生地を大きく押し広げながら盛り上がっているのだ。
襟を少し引っ張れば谷間が見えてしまいそうだ。
(やっぱりわざとじゃないか。それにこいつ、わざと小さめのサイズを選んだな。)
「ブラ、外してきた方が面白かったかな……」
胸を下から揺らしながらとんでもないことを小さく呟いた綾乃。
清純派だった彼女がここまで捻じ曲がってしまうとは。あの憑依霊には感謝の気持ちを抱くと同時に畏怖の念を抱いた。
(絶対に敵に回しちゃいけないな。次に会うことがあれば供物を用意した方が良さそうだ。)
「あまりやり過ぎるなよ。変なのに絡まれるかもしれないからな。」
「大丈夫ですよ。私たちより変態な人なんてそうそういないでしょうから。」
そういうことを言いたいわけではないのだが、信二はあえて流すことにした。
心を染められてから綾乃は憑依性癖を刻み付けられてしまい、自分の肉体美を惜しみなくアピールするようになった。
以前一緒に海水浴に行った時のビキニ姿は思い出すだけで下半身が固くなってしまう。
趣味も変質してしまっておりテニスが好きだった彼女は何食わぬ顔で同人ショップに入り、ネットで憑依モノを漁っては気に入ったものを見つけてその夜のオカズにするようになっていた。
「最近のマイブームは人妻寝取り憑依です!」と画像を見せながら嬉しそうに言う彼女の笑みが今でも鮮明に思い浮かぶ。
「あっ!まだ山口先生の新刊ゲットしてませんでした!信二さん、売り切れる前にダッシュで買ってきますね!」
リストをチェックした綾乃が焦った表情でタイムラインを確認する。幸いまだ完売したわけではなさそうだ。
「ああ、気を付けろよ。俺もラストスパートかけてくる。」
「終わったらあとで戦利品見せ合いましょうね!」
言って綾乃は再び人混みの中へと消えていった。
(俺にとって1番の戦利品はお前なんだけどな。最高の理解者兼彼女だよ、お前は。)
だからこそ今でも少し罪悪感を覚えてしまう。あの時勢いに任せて彼女を"カスタマイズ"してもらったが、その結果綾乃の人生は大きく変わってしまっただろう。
本人は自分が変えられたを自覚した上で幸せだと言ってはいたが、それもあの幽霊がそういう思考回路を彼女に組み込んだからに他ならない。
(いや、今更悩んでも仕方ないな。俺は自分の欲望に従ったんだ。そこに後悔はない。)
拳を握りしめた信二は綾乃とは反対の方向の人混みの中へと入っていった。
「お兄さん、新刊いかがですか〜?」
目当てのサークルに向かう途中、特にマークしていなかったサークルの売り子に声をかけられた。流行りのアイドルをプロデュースするソシャゲキャラのコスプレした彼女、再現率はなかなかのものだ。
ポスターの方に目をやると思わず目を見開いた。
(これ、憑依モノじゃないか!)
レーダーに引っかからなかったのか完全に見落としていた。まさかこんな掘り出し物があるとは!
「見本を拝見しても?」
「ええ!もちろん♪どうぞ。」
にこりと笑った彼女に手渡されて中身を確認する。複数枚の挿絵が付いた2次創作小説。
ねっとりとした描写と美麗な挿絵が相まって通が唸る作品仕上がっていた。
「……2冊ください。」
「お買い上げありがとうございまーす!お兄さん、もしかしてこういう女の子がカラダを奪われちゃうの好き?」
「え、ええ……まあ……」
売り子だからといって憑依に詳しいとは限らない。ひとまず言葉を濁してその場を離れようと信二は思った。
「ふふ、ほんと最高だよな。女の身体を好き放題できるのって。これだから憑依はやめられないぜ。このカラダも結構いいだろ?再現度高いカラダをわざわざ選んで来たんだぜ?」
「え……?」
まるで男のような口調で話す売り子に思わず呆気を取られる。
いや、まさか、そんなはずは……
「あ、あの……」
「ふふっ、どうですか?乗っ取られてる雰囲気出てました?私、結構女優派だと思うんですけど。」
「え……?す、すごい。ほんとに別人みたいでした。再現度高いですよ!」
一瞬本当に別の憑依霊には支配されているのかと思いそうになった。
それほど彼女の豹変には説得力があった。
「ありがとうございます♪カラダを取られた甲斐がありました♪」
「あーいいですねえ、そういうセリフ。演技だと分かっててもグッと来ます。」
「演技、ねえ……ふふっ、でも喜んでもらえてよかったです。気に入ったら冬も買いに来てくださいね。今度は別の娘のカラダを用意しますから。」
「はい!絶対に来ます!それじゃ!」
「またねー♪……くく、やっぱこのカラダを選んで正解だったぜ。帰ったらご褒美にイカせてやらないとな。」
後ろで小さく呟く彼女。
最後の方の言葉は喧騒でうまく聞き取れなかったが声色からして、とても楽しそうだった。
「が、頑張ったね……」
12時半過ぎ。
再び綾乃とは合流した信二は、彼女の姿を見て思わず苦笑いを浮かべた。
相当もみくちゃにされたのか全身は汗でべとべとになり、服はシワだらけで髪も乱れている。
「壁サーがすごくて……もう二度と並びたくないです……でも目的のモノはゲットしましたよ!人妻洗脳モノ!あそこのサークルの絵師さんの絵、肉感がすごくて大好きなんですよね!私も洗脳済みなのですごく親近感が湧いちゃいました。」
憑依されなければこんな場所とも無縁だったはずの彼女が、洗脳シチュに喜ぶまでに堕ちるところを見られるとは。
元の彼女には申し訳ないが非常に役得だなと信二は思ってしまった。
「信二さんは目標達成ですか?」
「ああ、それどころか思わぬ掘り出し物があったぞ。アイドルのコスプレイヤーに憑依する小説だ。」
「本当ですか!?あまり聞かないシチュですがとてもそそられます、それ!ぜひ見せてください!」
「はいはい、お前の分も買ってあるから。帰ってシャワーを浴びたら成果報告をしよう。」
「はい!とても楽しみです!同人イベントなんて初めて来ましたけど案外楽しいですね!会場が熱気に包まれていて、私もドキドキしちゃいました。」
晴れやかな笑みで言う綾乃を思わず愛おしく思ってしまった。ここまで自分と同じ趣味を持ってくれた彼女なんて今までいたことはなかった。しかもこんなに美人な……
「俺たちは歪な関係かもしれないけど、それでも思う。俺、綾乃と付き合えてよかったよ。」
「私も、やり方は正しくないかもしれないけれど、この世界のことを教えてもらえてよかったです。これが植え付けられた偽りの気持ちであったとしても、今の私は幸せです。」
むさ苦しい空気には不釣り合いな甘酸っぱい雰囲氣が漂う。
そんな2人を遠くから見つめる女性。
いや、女性の肉体の借りたこの世ならざる存在はその様子を見て悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「おうおう、すっかりお熱くなっちゃって。恋のキューピッドになった甲斐があったってもんかなこれは。でも、そろそろ話し相手が1人増えただけでは寂しくなる時期かもな。よし、もうひと肌脱いでやるとするか。」
自分の仮初めの肉体の胸をむにゅっと掴みながら、憑依された女性は悪巧みの笑みを浮かべた。
場所は変わってイベント会場のブースエリア。
平行に並べられた机のたくさんの列を囲うように並べられたブース、いわゆる壁サークルの机にサークル主として座っていた佐倉結衣(さくらゆい)は後ろに控えた段ボールの山を眺めながら一息ついた。
「ふう……あと3分の1と言ったところかな。」
人気サークルというだけあって購入目的の列は途切れることなく続いている。今も隣で売り子達が一生懸命長蛇の列を捌いている。結衣の画力の高さとストーリー構成はもちろん、本人のルックスの良さも相まって彼女を一目見ようと同人誌の購入希望者が絶えないのだ。
艶のあるショートボブ。年齢より若く見える童顔に似合わず身体の方はしっかり女性として成熟しており首から下の見事な曲線美が大人の魅力を醸し出している。
そんな彼女が扱うのは基本的に全年齢向けの2次創作漫画。裸、というかR18な内容も描こうと思えば描けるのだが、純粋に好きな漫画やゲームのキャラクターを自分の想像する世界で動かすのが楽しかった。
(そろそろ私もまた手伝うかな。)
汗水を流しながら頑張る売り子の1人と代わろうと今座っている後方の椅子から立ち上がろうとした瞬間、ぞわぞわと肉体に悪寒が走った。
「なに、今の……?」
熱がこもった室内で突然感じた寒気。
それが引くや否や、今度は胸に違和感を覚えた。
「えっ、な……ひゃっ!?」
違和感は明確な触感に。
もぞもぞとした感触は乳輪に円を描くものへと変わっていった。
まるで誰かに愛撫されているかのように優しく、まとわりつくような動きに思わず声を上げてしまった。
売り子と来場者が不思議そうにこちらを見ている。
「ごめんなさい。なんでも、ないです……」
腕を抱えて前に屈んでなんとかこの謎の感覚をやり過ごそうとする。
傍から見れば少し体調が悪そうな人に格好になってしまったが背に腹は変えられない。
(早く治まって……!)
だがその願いも虚しく見えない何かの優しい愛撫は乱暴に乳首を摘まみ上げるものに変わっていった。
「んぃっ!はぁ……はぁ……」
挟んだり引っ張ったり、くりくりと転がしてみたり押し込んでみたり、おもちゃのように乳首を弄られ嫌でも身体の中心が火照っていく。
「ふぅ……ぅん……ん、ぁ……ひぁ……やめ……て……」
消え入りそうな声で聞いているのかすら分からない相手に懇願する。
しかし、それを嘲笑うかのように刺激はますます強くなっていた。
「ぁ……ぁ、ぁっ、やめ、聞こえちゃ……んんっ!」
背中を丸くして快感に打ち震える。
さすがに見兼ねたのか売り子の1人が声をかけた。
「佐倉さん、体調が悪いようなら医務室行きますか?」
「んっはぁ……だ、大丈夫……ちょっと気分が悪いだけだから……」
「……無理はしないでくださいよ?脱水してるかもしれないので念のためスポーツドリンクを買ってきます。」
「あっ、待って……私も、イ……クッ!?」
引き止めようとして少し気が抜けた瞬間、乳首が狙ったようにきゅ〜っと摘み上げられ頭が真っ白になった。背中を甘い絶頂感が走り、それを受け止めた全身が下から上へとぷるぷると震え上がる。
「あっ、ハァ〜〜〜……♡」
全身が緩急し甘い吐息が漏れる。
彼女の脳は快楽物質によって機能が鈍化し、思考に空白が生まれた。
それが彼女の運の尽きだった。
「ひうっ!…………」
「佐倉さん……?」
「あ、ごめん。飲み物なんだけど、悪いから自分で行く。さっきより少し気分良くなったし。」
先程まで苦しげな表情が嘘のようにすっきりとした表情で結衣は言う。
「佐倉さんがそういうなら……」
「うん、大丈夫。ありがとう。少しの間席外すからその間はよろしく。」
「分かりました。」
すっと立ち上がった結衣は、まっすぐ自動販売機、ではなく近くの個室トイレに向かっていった。
「ふひ、ふひひひっ!この俺が、人気かつ超美人の同人作家になっちまったぜ。」
鏡の前に立ってぺたぺたと頬を叩く結衣。
彼女は絶頂の瞬間に見えない愛撫の犯人、綾乃を変えた憑依霊に身体を乗っ取られてしまったのである。
無論、彼なら絶頂させなくても憑依することはできる。しかしイッた瞬間に肉体を奪うことで、肉体の定着率を格段に上げることができるのだ。
そう、これまで様々な女性の肉体を渡り歩いてきた彼だったが、よほど外見とステータスを気に入ったのか彼女の肉体に定住することにしたのだ。
いわば完全に彼女の心を取り込んで自分色に染め上げ、人生をまるごと手に入れてしまおうというのだ。
既に一度絶頂したことで結衣の肉体は憑依霊の魂を受け入れつつある。
あともう一度イクことができれば完全に馴染むことだろう。
「君のルックスだけじゃなく、画力を含めた全ての能力や才能も手に入れられるんだから最高だよな。ずっと佐倉結衣の絵柄で憑依シチュを見てみたいと思ってたんだ。あいつのためにちょっとカラダを俺にくれよ。」
お菓子を分けてもらうような気軽さで言った憑依霊はブラウスの中に手を入れブラジャーだけ抜き取った。
支えを失った胸は重力に負けて少しだけ下を向いたものの、以前として綺麗なお椀型を保ち続ける。
憑依霊の興奮と、先程の絶頂の余韻からか、ブラウスの上からぷっくりと浮き上がる乳首がいやらしい。
「へへっ、スケべなカラダだなあ……」
試しに左右に身体を揺らして見るとぷるぷると胸も揺れて服の生地に擦れた乳首が甘い快感を放つ。
「んっ……ふぅ……エロすぎてアソコが濡れちまうわ。肉体はやっぱり正直なんだな、あんっ!」
胸を鷲掴みにして乱暴に揉みしだく。
とっくに出来上がった肉体はそれすら快楽と受け取り全身に電気を走らせる。
「ふあっ!うっ、うっ、ウンンッ!さっきは声を我慢してたもんな。俺が代わりにお前の声で鳴いてやるよ……あはんっ!乳首、イイ……やっぱり断然胸派だわ。こいつもなかなか張りのいいケツをしてるみたいだけどよ。」
スキニージーンズの上から丸々実ったお尻をぱんっと叩いてその小気味のいい音を楽しむ。
肉体をモノ扱いすることで支配感が満たされるのだ。
「ははっ、ほんといいカラダしてるわこいつ。さっさともらっちまうか。」
結衣が浮かべたことのないような悪意に満ちた笑みを浮かべるとジーンズを降ろして便座に座る。
ぐしょぐじょになった下着のクロッチを撫でるとクチっといやらしい音がたった。
「この張り付く感じとのっぺり感がたまらねえな。
しばらく弄っていると感じ始め甘い声が漏れ始める。
「んっ……んふっ……んんぅう〜……ペンを握るはずの指でアソコいじるの気持ちいい……んっ、ん!」
ブラウスの前を開くと右手でアソコを触りながら、露わになった胸とその頂きをいじり倒す。快楽の2点責めに声がますます大きくなる。
「あっ、あっ!あ〜っ、これ最高。このカラダでオナニー、何時間でもしてられそうだ……あん!ああんっ!」
本当なら立てなくなるまで肉体を犯してしまいたい。しかしあまり時間をかけ過ぎるとサークルの人達に怪しまれてしまう。
「ぐふ、ふふふ、ごめんな佐倉さん。時間もないからもう君の存在は俺で上書きしちゃうな。指をGスポットに入れて、あっ、あっあっああっ!すごっ!ここやばっ!はあああっ!あああっ!♡」
弱いところを突かれた結衣のカラダが歓喜に打ち震える。自然と背中を反り腰がカクカクと前後する。
「あ〜っ!!あっ、あっああっ!!アア〜〜♡い、いく、もういくっ!このカラダが俺のものに!あっあっあっ!!♡」
びくんっ!!と全身が跳ねた。
その瞬間頭の中がスパークし何もかも真っ白になった。
「ああああアアアーーーーーッ!!!♡♡」
股間からは愛液が噴出し、指を伝って流れ落ちていく。
ぴんっと勃起した乳首はその肉体の絶大な絶頂感を物語っていた。
「あひっ!!♡」
だがそれで終わらなかった。
肉体の絶頂の直後、結衣の肉体の中に潜んでいた憑依霊の魂は脳が漂白された隙に、彼女の核となる心の奥底に入り込んだ。
守りがなくなったのをいいことに、本来なら誰も立ち入れないはずの結衣だけの聖域に土足で入り込み彼女を彼女足らしめるものを全て塗り潰していく。
そして、彼女の心はやがて彼色に染まり、新しい支配者によって作り変えられた。
「ンハァあああっ!!!♡♡♡」
二度目の絶頂。
しかしは今度は肉体を支配する歓喜の嬌声。
全身鳥肌が立ち、ひとしきり身体を震わせた後、力なく前に上半身を倒した。
「………………くふっ」
流れ込む記憶を感じ取りながら、全てが終わったと確信した結衣は下品に嗤った。
「私の人生、取られちゃったぁ……♡」
「結局最後まで残っちまったなあ……」
「カタログ見たらシコそうな本たくさんありましたもんね。」
「綾乃にしては下品なセリフだなあ。」
「誰のせいでこうなったと思ってるんですか。」
「あの憑依霊のせいだ。」
「もう!責任転嫁して!信二さんも加担しましたよね?私のカスタマイズ!私をあの時イカせて心を無防備にしたのは誰でしたっけ?」
「それについては反省も後悔もしていない。」
夕刻も近くなって会場から駅へと続く道を歩く2人。背中には大量の薄い本でパンパンになったバッグを背負っている。
帰って2人で見せ合い、ひいてはそのままの流れで組んず解れつ、なんてことを信二は思案していた。
「へへっ、なかなかいい性格になったじゃんか。」
不意に後ろから声を掛けられた2人が振り返ると、そこには佐倉結衣の姿があった。
「えっと、どちら様で?」
結衣とは面識のない信二が訝しむ。
「悲しいなあ……俺のことを忘れるなんて。2人でそこの綾乃ちゃんをオモチャにした仲じゃないか……!」
「なっ!お前、もしかして……!あの時の!」
「ぴんぽーん!また会ったな。というよりら俺が会いにきてやったんだが。ほれ、どうだ?俺の新しいカラダは。なかなかいいボディしてるだろ?」
自慢げに張った胸に手を当ててを自分のものとなった見せ付ける。
「新しいカラダって、まさかその人に成り代るつもりなのか?」
「んー、まあ、半年くらいは?そのために同化したんだし。」
あっけらかんとと言う結衣。
元より永住するつもりはなかったらしい。
しかし、それではひとつ疑問が浮かぶ。
「そんなことして、抜けたあとはどうなるんだよ。」
「ふふふっ、人格がコピーされたまま残るんですよ。前に言ったでしょう?人生を180度変えてしまった人もいるって。これもその一端ですよ。この世界には、"俺"の人格をそっくりそのまま植え付けられた人が隠れて生活してるんです。まあ、中には隠れる気がない人もいるみたいですけどね。ほら、急にセクシー路線に変更する芸能人とかいるじゃないですか。あれ、俺の仕業のこともあるんですよ。自分の肉体を世に見せびらかしたいんだろうなぁ……よくわかりますよ。他ならぬ"自分"なんですし。」
「何ですかそれ、めちゃくちゃエロいです。誰か教えてください。その人が出てる番組を積極的に録画してオカズにするので。」
隣にいた綾乃が食い気味に尋ねる辺り彼女もやはり人格コピーほどではないもののしっかりと汚染されているのだと改めて実感させられた。
「ふふっ、綾乃さんはいい趣味してますね。いいですよ。ならどこかでご飯食べながら話しません?同人の売り上げがあるので奢りますよ。これでも壁サークル主ですから。あ、なんならスケブ描きましょうか?このカラダの記憶と経験を使って"佐倉結衣"の画風を完全に再現ですよ!シチュはもちろん、憑依で。にひひっ。」
そういう彼女は心の底から楽しそうだった。
果たしてその笑みが彼女のものか憑依霊のものか分からなくなるほどには、完全に男臭さが消えていたのだ。
そしてそんな彼女が次のイベントで出した同人誌はR18憑依モノ。
それまで一貫してエロを描かなかった彼女の突然の路線変更にファンの間で衝撃が走り、中には離れていった人もいると言う。
しかし当の本人がそれを気にするようなことは一切なく、むしろイキイキしているかのようだった。
「これが、私が本当に描きたいものだったんだ……!」
肉体と人生を奪われた女性が、ダークな憑依を題材に同人誌を作る。
そんな皮肉かつ倒錯的な状況に結衣は興奮を覚えた。
大物作家からの憑依作品に界隈はもちろん大盛り上がり。
信二と綾乃もその本には"お世話"になったようだ。
「最悪で最高の友人ができちまったな。」
憑依霊に汚染された芸能人のSNSを見ながら、信二は小さく呟いた。
自分が結び付けた二人のその後を喜んでいるばかりか、アフターケアも考えてるとは。
もちろん、乗っ取って、自分の分身に作り変えて楽しんでからですけど。
今回も、結衣が作り変えられる辺りはグッときました。最高です!
素晴らしい。まさに最悪で最高の友人ですねー。