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【憑依モノ祭り11日目】泥に堕ちる

作者:回転軸
作者コメント:悪意たっぷりのご令嬢憑依になります! よろしくお願いします!



#ex:泥の中・1
 ……深く、遠く、暗く、重く、泥のような闇の中に、沈んでいる。

 薄暗がりの室内で、白いふとももが浮かび上がるように晒されていた。
 小刻みに震える指先が質の悪い布をつまみあげ、胸元近くまで持ち上げる。地味な紺色のスカートはランプの頼りない灯りの中ではほとんど見えない。夜の室内は音まで闇に溶けてしまったようで、かすかに漏れる吐息だけが静寂を揺らしている。

 するり、と蛇のような動きで二本の指がふとももに絡みついた。柔肌に痕を残しながら上へ上へと這い進み、そのまま一気に膝下まで滑り落ちる。
 焦らすような動きで指が離れると、ふくらはぎのあたりに白い布きれがクルクルと丸まっているのが見えた。ショーツを引き下ろしたのだ。闇に浮かぶ脚はカタカタと震えはじめ、それを楽しむように蛇の指がまた爪を立てる。

「もう……」

 荒い吐息に混じって、かすれた声が夜の中に沈んだ。

「おぼっちゃま、もう……」

 涙声だった。
 なにかをこらえるような、怯えた声。返答はなかった。「ハハ」と妙に上ずった笑い声だけが響いて、あからさまに指の動きが激しくなる。

「ふっ……うう……」

 闇の中で涙と吐息が交錯する。背徳的な興奮がジリジリと部屋の温度をあげていく。光も音もかすかにとろける暗闇で、濃密で淫らな温度だけが妙な現実感をもって肌にまとわりつく。

 ――ぐちゅり、

 いやらしい水音が、淫闇の中にこだまする。震えるひざとひざをすり合わせるようにして「ご容赦ください」と懇願するも、指の主が頷いたようすはない。

 かわりに、のそり、と影が立ち上がった。

 暗がりからまろびでた影はいやに大きく見えた。姫に襲いかかる魔王のように、荒い息とともにせわしなく全身を蠢かせている。

 影はあわただしく服を脱いで、屹立した男根をあらわにした。揺らぐランプに照らされて黒光りするそれは、まるで怪物の腕のように見えた。

「うしろを向け」
「い、いや……!」

 弱々しい抵抗を跳ねのけて、影が襲いかかる。「たすけて」――か細い悲鳴が消えていく。

 たすけてお嬢様、と。

 その瞬間、アンジェラはようやっとこれが凌辱だと確信した。

「――お兄様!」

 泥のような闇から飛び出し、扉を開けて室内に踏み込むと、アンジェラはあらん限りの声で叫んだ。机に手をついた泣き顔のメイドと、彼女の白いお尻をつかむ下半身丸出しの兄が、そろって驚愕のまなざしをこちらに向ける。

「やめてください! 彼女はわたくしのメイドです!」
「な、な、なんだお前はぁ!」

 兄は一瞬で逆上した。メイドを突き飛ばし、アンジェラの細い腕をつかんで闇の中にひきずりこむ。幼いカラダを組み伏せて、何を言う間もなく平手を飛ばした。

「なまいきなガキが! オレのやることにいちいちケチつけやがって!」
「う、うぁ……」

 じんじんと左ほおが痛んで、涙で視界がゆがむ。メイドの悲鳴が聞こえる。

「で、でも、ミリアは、わたくしのメイドだから……ともだちだからぁ……」
「うるせえ! このっ……お、お前が、お前でもいいんだからな!」

 言葉を理解するより早く、兄の腕がアンジェラの寝間着を引き裂いた。まだティーンにもならない、なだらかな肌が夜の冷気に晒される。胸元を撫でる空気の感触に、ぞわりとアンジェラの全身が総毛だった。

「いやあ……っ!」
「おっ、犯してやる! 二度とオレに、逆らう気になんてならないように――」

 悪意が黒い影になって覆いかぶさる。はじめて体験する圧倒的で絶望的な暴力に、アンジェラは泣き叫んだ。それまるで先ほどまでのメイドのようで、

「ギルバート」

 やはり先ほどのように、誰かがアンジェラを助けてくれた。

「と、父様……」
「アンジェラをはなせ」

 黒い影がふらふらと離れていく。あわてて兄の下から抜け出したアンジェラは、駆け寄ってきたメイドに泣きながら抱きついた。

「父様、違うんだ、これは……」
「馬鹿者が。お前のしたことは許されない。メイドに悪戯するのとは訳が違う」
「あ、ぁ……」

 ギンギンにいきりたった陰茎が瞬く間にしおれていく。大事なメイドと抱き合って、それでもアンジェラは兄から目が離せない。ずっと前には優しく、一緒に遊んでくれたことだってあったのに。
 呆ける兄にかける言葉が見つけられず、騒然とした夜の中、アンジェラはただ沈黙した。


 こうしてフィンダース家の長男であり、アンジェラの兄でもあるギルバートは、教育の名目で屋敷を追われ、軍学校へと入学することになった。
 わずかに、三年前のことだ。


#1:悪意覚醒
 穏やかな春が足早に過ぎ、やわらかな夏がおっとりと駆けつける、そのちょうど中間のころあいだった。
 窓から差し込む陽ざしがほんの少し強くなって、ずっと眠っていることがかえって苦しい、そういう時節。

「お嬢様、お目覚めの時間ですよ」

 だから、ミリアの優しい声にも、すぐに反応することができた。

「ん……はよ……ミリア」
「ほら、しゃんとして。顔を洗ってきてください」
「もちょっと、だめ……?」
「だめですよ」

 本当はお布団にたいして未練がないことも、ミリアはどうせ見抜いている。微笑む彼女に駄々をこねたい気持ちはあったけれど、今日は素直に起きることにした。

 ベッドの上に身を起こし、少しだけ手を広げる。苦笑ぎみに微笑むと、ミリアは身を乗り出してそっと額に口づけをした。

「おはよう、ミリア。今日もわたくしを起こしてくれてありがとう」
「いえ、私もお嬢様が起きるのを見届けないと、一日がはじまりませんので」

 ベッドから抜け出して既に開かれたカーテンから外を見る。ささやかだが手入れがされた庭園が朝陽に照らされている。絶好のお茶会日和に思えた。

「ねえミリア、今日は外でお茶をしたいわ」
「ええ、いいですね。よいお天気です。用意しておきますね」

 濡れ布巾で顔を拭いてシャッキリすると、ミリアに手伝ってもらいながら寝間着を脱ぐ。普段使いのドレスは装飾が少ないデザインを選んだ。布の質は悪くないし、シンプルだからつまらないというわけではない。今日の気分に合っていることが大事。
 お気に入りのブロンドの髪をすいてもらって、ハーフアップにまとめれば、朝の準備は完了だ。

「ミリアも、たまにはおしゃれしていいのよ」
「ありがとうございます、私はこれで十分ですよ」

 真面目なメイドはいつも地味な紺色のワンピースにエプロン姿だ。よそでは昼のうちはもっと明るいデザインの服を着ているのに、ミリアは全く意に介さない。ブルネットの髪だって、かわいさの足りないアップスタイルばかり。アンジェラはミリアのことが大好きだったが、自分を飾らなさすぎることだけは不満だった。

「それでは、今日も一日がんばりましょう」
「うん、がんばるわ!」

 午後のお茶会を楽しみに、まずは朝食の時間だ。それがすんだら、午前中はみっちりお勉強である。

「お父様にご挨拶してくるわね」
「ああ、旦那様は早くにお出かけになりました」
「そうなの?」
「奥様もご一緒です。今は、屋敷に私たちだけですね」
「……じゃあ、朝ごはんはわたくしひとり?」
「そうなります」
「……」

 じっと見つめると、ミリアは困ったように笑い、それから降参といわんばかりにかぶりを振った。

「ご一緒します、お嬢様」
「でしょ! そのほうがきっと美味しいわ!」

 主人の笑顔にメイドも笑う。フィンダース家の今日は、優しく穏やかにはじまった。

◇◇

 フィンダースは貴族である。とはいえ爵位は最下級で、財力も政治力もほどほどだ。屋敷の大きさもそれなりで、使用人もごく少数。そのほとんどが外仕えの者で、住み込みで働くのは執事とメイドがひとりずつというありさま。そこらの商人のほうが贅沢な暮らしをしているだろう。
 だが、アンジェラはこの家が好きだった。庭で迷子になったり、屋敷を把握しきれなかったり、百人もの使用人がいたり、そんな話を聞くたびにすごいなとは思うが、そうなりたいと考えたことは一度もない。

 手の届く範囲に好きな人がいること。毎日おいしいご飯を食べて、ゆっくりと眠れること。それ以上に望む必要なんてない。今だって与えられすぎているくらいだ。

「お茶が入りましたよ。今日は……」
「待って、あてるわ」
「ではどうぞ」
「今日はね、わたくし冴えているのよ……アールグレイだわ!」
「アッサムです。冷めないうちにお召し上がりください」
「う~……とっても美味しい!」
「それはなによりです」

 ぽかぽかと暖かな陽気が、申し訳程度の庭に降り注いでいる。テーブルを用意して椅子を出せばもうほとんど埋まってしまう手狭な空間だが、アンジェラはここでのお茶会が好きだった。

「お父様とお母様はどこに行ったの? わたくし今日はちゃんと起きたのに、顔も見られないなんて残念だわ」
「ええ……急用があって、軍学校の方に向かわれたそうです」
「……」

 ひやり、と心の内側がかすかに冷えた。軍学校。冴えない貴族のフィンダース家が軍学校に関わることなどほとんどない。接点はひとつきりだ。

「……お兄様が、何か?」
「私も詳しいことは聞いていません。……大丈夫ですよ、お嬢様」
「わたくし……お兄様に、帰ってきてほしくないわけではないの。本当よ。でも、ミリアが……」
「だから、大丈夫ですよ」

 優しく微笑む友人は、そっとアンジェラの髪に手を添えて、なでるようにすいた。むずがゆいようで安心する。目を閉じて、うん、と小さくうなずいた。

「ごめんね、ミリア……おそろしいのはあなたのほうなのに」
「私は何も怖くありません。お嬢様も、旦那様も、私を守ってくれます。ギルバート様だって……きっと、立派に成長されていますよ」
「うん」

 そうだったらどんなにかいいだろう。いつかのように兄妹笑いあえれば。

「ねえ、そういえば、あなたの妹がここに来るって、本当?」
「あっ……だ、誰から聞いたんです!?」
「本当なんだ! ジェリーが漏らしたの! もう、なんで言ってくれなかったの!」
「は、恥ずかしいんですよ、ほんとうにお調子者のおてんばなんです。私は反対だったのですけど」

 メイドをひとり増やすという話を父から聞いたのは数か月前だ。どんな人が来るのか気になったが誰も教えてくれない。執事のジェリーをしつこく問い詰めて、やっと正体を知ったのがおとといのこと。
 まさかミリアの実の妹とは!

「きょうだいがいたなんて知らなかったわ」
「うちは貧乏なのに家族が多いんです。上にも三人いますし、弟妹はもっといます」
「み、みんなうちに来る!?」
「来ません、来ません」

 呆れたように否定するミリアの笑顔を見て、アンジェラはひそかにほっと息をついた。余計なことを言って、かえってミリアに心労をかけてはどうしようもない。

 ギルバートのことを考えると、ずしんと心が重くなる。悲しくてつらい。アンジェラは兄のことも好きだった。したことは許せないけれど、それでも嫌いになることはできない。

 黒い靄のような感情が、ジワジワと心の底にたまっていく。大げさに深呼吸をして、それからアンジェラはミリアに笑いかけた。

「午後もお勉強をするわ。それがおわったら、一緒に遊んでもいいわよね」
「ええ、お嬢様。もちろんです」

 大丈夫。きっと大丈夫だ。もしギルバートが家に戻っても、ミリアの妹がそこにいても、きっと幸せな家族になれる――

 ――ズシン、

 ――きっと、幸せな。

「……?」

 ずしん、と心の底に重しが落ちる。もう大丈夫だと思ったのに。ミリアは笑ってくれているのに。ずしん、ずしん。心臓が引きずられていく。全身が痺れたようにいうことをきかない。ずしん、ずしん、ずしん。頭が急に痛みだした。めまいがする。胃の奥がきゅうっと締め付けられて、肺がヒイヒイとかすれた悲鳴をあげている。

「お嬢様? ……お嬢様!」

 ミリアが駆け寄る。意識がめぐる。息が吸えない。バチバチと視界が瞬く。カラダの感覚がない。背骨が熱い。骨のかわりに焼いた鉄を入れられたみたいだ。気が付けば世界は真っ白で、そして、

 ずしぃん――……

 ゆるやかに、その全てが暗闇で覆われた。


◇◇


「あっ、がっ、うげェっ……」

 突然だった。
 ついさっきまで楽しく笑っていたアンジェラが、白目を剥いて痙攣している。椅子から転げ落ちてカップを落とし、庭草にまみれて蠢いている。体温が一気に落ちていくのを感じる。まるで血液が氷水と入れ替わったみたいだ。

「お嬢様!」

 駆け寄ったはいいが、どうすればいいのかわからない。医療の心得があるのは執事のジェリーで、今は旦那様と一緒に軍学校に行っている。帰るのは早くても夜半、下手をすれば明日になる。

 医者に連れて行くか、ここに呼ぶかしなければならない。どちらにせよ一度は彼女を安静な場所で休ませるべきだろう。ミリアは暴れるアンジェラをどうにか抱きかかえて、あわてて屋敷へと駆け戻った。

 アンジェラの部屋は二階にあるが、一階にも客間がある。

(客間……)

 ここは三年前、ギルバートに辱められた場所だ。いやな思い出だが、構っているような場合ではない。幼い主も抱くうちに少しは落ち着いたようで、ベッドに横たえると呻きながらも全身の力を抜いたように見えた。

「お嬢様……」

 熱があるようすはない。むしろ血の気が引いているようで顔色が明らかに悪い。口にしたのは朝食と紅茶くらいで、どちらもミリアが用意した。こんなにも急激に体調が悪くなる原因がわからない。

 あるいは感染症かもしれないが、ミリアが無事なのだ。どこから感染したというのだろう。

「待っていてください、お嬢様。すぐにお医者様を呼びますからね」

 とにかく医者だ。駆け出そうとしたミリアを、

「待っ……て……あっ、ぁ……」
「お嬢様! 気がつかれたのですか。とつぜん倒れて……いえ、とにかく寝ていてください」
「まって、待て……あ、あーうー……ゲホッ、あー、えっと……あぁ?」
「お嬢様……?」

 ベッドの上に身を起こしたアンジェラは、あーあーと繰り返しながらかぶりを振った。不可解そうに周囲を見回して、しきりに手を握ったり開いたりしている。

「はあ?」

 自分の胸に手をあてて首を傾げると、目をこちらに向ける。アンジェラの顔だ。アンジェラの瞳だ。だというのに、なぜかまるで違う人間のように見えた。

「なん……おぉ……? はぁン……」
「あ、あの……お嬢様?」
「オジョウサマ?」
「あの……」

 次の瞬間、ミリアは目を疑った。アンジェラが、おとなしく優しい、丁寧に気品あれと育てられたあのアンジェラが、親指の爪を噛んだのだ。

「おっ、お嬢様、どうなされたのですか!?」
「うるせ……どこだここ……ぁア、屋敷か……けッ……結局ここなのかよ」
「あの……」

 ぶつぶつとつぶやきながら、アンジェラはベッドから降りた。広がったスカートをうっとうしそうに払って、それから「ハハ」とどこか空虚な笑い声を漏らす。

「お前、あの奴隷か。はアん、ちょうどいいや」

 ドキリ、と心臓が痛む。奴隷。使用人のことを奴隷なんて、アンジェラは一度だって呼んだことはない。

「脱げ」
「ぬ……え……?」
「服を脱げ。あ、いや……自分でスカートをめくって下着を見せろ」

 頭の上から心臓の下あたりに向かって、一斉に波が引くような音がした。顔が熱いのに、全身は寒い。視界が揺らぐ。過去の記憶が胃を掴みあげて、痛みと吐き気が同時に襲ってくる。

 ここで、この場所で、服を脱げ?

「お嬢様、アンジェラ様、どうしたのですか……?」
「どうもこうも、お前の裸が見たくなったんだよ。早くしろよ」

 自分の腕や脚をべたべたと触りながら、小さな主人はつまらなさそうに命令を繰り返した。何かを確かめるような手つきだ。幼い手でふくらみかけの胸を撫でると「ちんちくりんが」と吐き捨てた。

「もう少し育ってりゃ自分でも楽しめたのによ。使えねえ」
「……あ、アンジェラお嬢様」
「おい、いつまで突っ立ってんだよ。スカートをまくれって言ったろ」

 世界が揺れている。頭が痛い。アンジェラのものとは思えない冷たい声が脳内で反響して、わんわんと耳鳴りを起こしている。どうすればいいのかわからない――動けない。

 恐れと戸惑いで硬直するミリアを見て、アンジェラはわざとらしく舌を打った。不機嫌そうな顔でメイドを下から睥睨すると、

「早くしろ!」

 その一喝に、ミリアはびくりと全身を震わせた。壊れかけの機械を叩いて直す時のような、前後のつながりのない唐突な動きで、両手をスカートに這わせる。
 ギラつく蛇のような眼が、ミリアを睨んでいる。なぜこんなことになっているのか、哀れなメイドには何もわからなかったが、しかし命令に従うしかない。

 震える指でロングスカートの中ほどをつかんだ。ミリアが着ているのは一般的なメイド服だ。抑えた紺色のワンピースに、清潔な白いエプロン。踝まで丈があるロングスカートとエプロンをまとめてたぐりよせて、胸元まで持ち上げる。

 あらわになった白い脚は細いながら女性的なやわらかさを保っていて、触れれば十分に指先を愉しませるだろうと思われた。飾り気がなく地味な下着にはまるで色気が足りないが、この場においてはそれがかえって背徳感を増している。

 ヒュウ、と下品な口笛が聞こえて、ミリアは思わず目をきつくつむった。

「ハハ、つまらねえ下着」

 わざと傷つけるような言葉はメイドの心をえぐったけれど、それはランジェリーのセンスを詰られたからではない。そんな言葉を彼女がこぼす、その事実そのものがミリアを打ちのめした。

 わけがわからない。病に冒されておかしくなってしまったのか?

 スルリ、とほのかな体温が剥き出しになった両脚に巻きついた。五本の指が嬲るように肌を這い、下着に指をかけて引き下ろす。

「……ッ!」

 股の下を冷たい空気が撫でていく。それはいやになるほど明白な、あの日の再現だった。

「ふうん」

 ふうっ、と生ぬるい呼気が下半身にまとわりついて、ミリアはかすかに身を震わせた。
 アンジェラに乞われて添い寝するとき、彼女の寝息はとてもやさしく、心地よく、まるで世界平和の象徴のようだった。ところがどうだ。今股の下で「ほうほう」といやらしい声をもらす彼女のそれは、いやにヌメついた、海洋生物のような不快感を伴っている。

「お、お嬢様……」

 懇願するような声は、すげなく無視された。ざり、と幼い指先が手入れの甘い繁みに触れ、その先の肉ビラを撫でる。思わず腰が跳ねて――「ハッ、感じてんの?」――嘲りの声に唇を噛んだ。

「お前処女?」
「な、なにを……」
「答えろよ、経験あんの?」
「……あります」
「ふうん。つまんねーな」

 さすさすと入り口を撫でまわしながら、本当につまらなそうにアンジェラは言った。セックスについて、彼女が少女なりの幻想と現実を抱いていることは、ミリアもわかっている。初潮もすでに過ぎた。

 だがそれは、従者の性器をいじりまわしながら聞くようなことではない。主にとってもそうであるはずなのに。

「ふっ、ぅ……!」

 曖昧な動きばかりしていた指先が、その奥へともぐりこんでいた。陰毛に隠れた門を無遠慮に開き、ピンク色の肉園をグニグニともみほぐす。雑で乱暴な愛撫では感じるどころではなかったが、直接的な刺激に腰が引ける。

「すっげ……なんかキモチワリーのな……」

 アンジェラの指はまるで遠慮しなかった。形を確かめるように肉畝を執拗に撫でまわし、尿道に爪を立て、包皮にくるまれたクリトリスをつつく。そのたびにミリアは唇を噛んで恥辱に耐え、主が正気に戻るのをひたすらに祈った。

 だってこんなのはおかしい。熱か何かで一時的にどうかしているだけで、すぐにいつも通りのアンジェラに戻ってくれるはずだ。正気に戻ったら泣きながら謝ってくるだろうから、頭を撫でてあげよう。大丈夫ですよと微笑もう。そうすればまた笑いあえるはずだ。しばらくしたら妹もやってくる。本当はすごく楽しみなのだ。粗相しないか心配だけれど、きっとアンジェラと仲良くなれる。一緒にお茶会なんてして、夜にはおしゃべりをして、旦那様に怒られないようにしないと。そうだ。こんなのは今だけだ。すぐに終わる。すぐにいつもどおりになる。だから。

 ――ぐちゅっ!

「ひァっ……!」
「ここかあ、まんこ穴」

 指が、とうとうそこにたどりついた。膣道の入り口にもぐりこんだ人差し指は、探るように周囲の肉壁に触れていく。ぞくり、と悪寒じみた感覚が腰を震わせる。言い知れぬ焦燥感が心臓に迫ってくる。かすかに口をあけて、ミリアは恐れと不安を吐き出すように、細く長く息を漏らした。

「おっ、感じてる?」

 それをどう勘違いしたのか、股下の主が声を跳ねさせた。本当にうれしそうだ。誕生日のサプライズが成功した時と同じ声だった。

「もっと奥だろ?」
「おっ、お嬢様……ンはっ……」

 指が、半ば強引に道を割り開いて突き進む。アンジェラの幼い指では太さも長さもたかが知れているが、何年も男を受け入れていない膣道はそれでも主を拒んだ。自分が拓かれていく久方ぶりの感覚に、思わず背を反らして吐息を漏らす。

「お前、なに、結局こういうの好きなんだ? 恥知らずだな」
「そっ、そんなことありません……!」
「だって」

 ひやり、と耳の後ろを冷気が撫でた。なにかとても嫌な予感がする。この先を聞いてはならないと心が叫んでいる。しかし、制止は間に合わなかった。

「だってお前、濡れてるぜ」

 嘲り交じりの声に、心臓がひときわ強く脈打った。

「濡れ……?」
「濡れてるよ。ほら」

 ぐちゅっ――

 人差し指が軽く往復するだけで、聞くに堪えない水音が響いた。膝が震えている。股下から腿にかけて、生ぬるい温度が伝っていく。濡れている? 感じている?

「じゃあ、遠慮なんかいらねーな」
「え……? 待、まっ……いっ、んぁぁう!」

 ぐぢゅりっ! とひと際強く指が突き込まれた。なるべく奥へ届かせるようにだろう、指の付け根までを媚肉に押しつけてグリグリとねじりこむ。その強引さと勢いに、思わずミリアはブルリと腰を揺るがせた。

 ぐじゅっ、ぶちゅっ、にちっ……

「ほら、ほら! どんどん出てくるじゃん。淫乱の豚じゃねえか、やっぱりよ!」
「ちっ、ちがう……ちがいます……ッ」

 否定の言葉は、ミリア自身にすらそらぞらしく響いた。アンジェラの指はやっと半ばに届くかという程度だったが、上下左右に指をひねりながら攪拌するように往復するたび、想像外の刺激が腰の裏側で弾けていく。その奥に至れないからこそ同じ領域ばかりを執拗にねぶる陰湿な愛撫が、膣をどろどろにとろかしていく。

 ぢゅぷぷっ、ぐちゅっ、にちゅっ……

 下半身の感覚が少しずつ快感に集中していき、足に力が入らなくなる。痙攣するように小刻みに膝が震え、それでももっと快楽を貪ろうと、腰だけが前のめりにうごめいている。

 アンジェラはまだ小さい。どれほど執拗に、強欲に、粘着質になぶろうと、そもそもその指では奥に触れられない。
 充血した膣はあとからあとから蜜を吐き出し、ほぐれきって待ち構えている。だというのに、先端ばかりが責め立てられて、肝心の場所が埋められない。どくどくと早鐘を打つ心音が、スカートの裾を握るままの両手に伝わってくる。

 嘲る言葉も控えめになり、互いの吐息と喘ぎが充溢する淫密な空気が、脳を痺れさせていく。もどかしい。足りない。

「はやく……っ」

 思わず声をもらして、

(私、何を……!?)

 ミリアは愕然とした。早く。早くほしい。もっとほしい。もっと奥までほじくって、絶頂させてほしい――その時被害者だったはずのメイドは、確かに決定的な刺激を淫蕩に求めていた。

 淫らな水音とともにこぼれる愛液に、理性まで溶け出しているような気がした。

「はは、ほしいのかよ! ほら見ろ変態が!」
「あっ、う……」

 耳ざとく聞きつけたアンジェラが、笑いながら手を引き抜いた。粘つく大量の蜜が、どろり、と指先と膣をつなぐ。汚れた中指をしばし見つめると、アンジェラはあろうことかそれを口にふくんだ。

「なっ……なにをしているんですか!」
「ちゅぷっ……フン、甘くねえな、あたりまえか」
「お嬢様……」
「なんだよその顔。傷つくなあ」

 げらげらと下品に笑って、アンジェラは自分のスカートに手をつっこんだ。鼻歌まじりに下着を抜き出し、目の前に広げて見せる。
 ミリアのものより遥かに上質でかわいらしい下着を、しかしアンジェラは興味なさそうに放り捨てた。ニヤつく笑いを浮かべて、「本番だ」と唇を舐める。

(本番……何か、あるの? この奥に……)

 疼き続ける奥に、触れられるものが?

「待てよ……どれ……」

 アンジェラは何かを探るようにスカートの中で右手を蠢かし、

「あっ……?」

 困惑気味に眉をしかめた。

「ない! あっ、くそ、そうか、アンジェラ……ああっ! ふざけんなよ!」

 癇癪を起したように怒り出すと、床を蹴って頭をかきむしる。きれいなブロンドの髪がぐしゃぐしゃに乱れて、蛇のようなアンジェラの目をよりいっそう狂気的に見せた。

「………」

 そのまま数秒、アンジェラは忌々しそうに親指を噛みながらこちらを睨みつけた。何かを考えているようだったが、ミリアにはそもそも何をそんなに怒っているのか、何をしようとしていたのかがわからない。昂ぶりきったカラダは未だに絶頂を求めていたが、心の熱は少しずつ冷めようとしていた。

「……ああ、まあ、それでもいいか……」

 だが、そこでアンジェラはニタリと笑った。まるでミリアの鏡映しのように両手でスカートの裾を持ち上げ、剥き出しの白い秘部を晒す。

「お、嬢様……」
「なあ奴隷。こっちのことも舐めてくれよ。そうすれば――自分でシてもいいぜ」
「……ぁ、あ……」

 その瞬間まで、ミリアには自分で慰めるという選択肢がなかった。もちろん、訴えたところでそれは許されなかっただろう。だがそもそも、発想自体がなかったのだ。触れてほしいとは思っても、触れたいとは考えなかった。

(私……私は……)

 指先から力が抜ける。お仕着せのロングスカートがふわりと待って、ミリアの淫蕩を覆い隠す。しかしもう遅い。それは既に、カラダの内側にいやというほど刻まれてしまった。

 アンジェラがスカートを持ち上げたままあとずさって、ベッドに腰かけた。膝を開き、腰を浮かせ、閉じたままの幼い秘所を強調する。

「さア」

 覚束ない足取りで主の前まで進み、跪くように膝を折る。両手をそっと細い脚に添えて、ゆっくりと舌を伸ばした。

 言い訳できない。これはもう、自ら望んで犯す淫罪だ。

「んっ、ぉお……」

 感動するような声をもらして、アンジェラの腰がわずかに浮く。まだ肌に触れただけだ。s少女のそこは身を寄せ合って、中の肉ビラの一枚も見えない。一本の純真なスジがあるだけ。そこに、そっと指を這わせ、やさしく、丁寧に、開いていく。

 くちっ……

 肉の門をくつろげたその先には、淡いピンク色の艶花が咲いていた。色素の沈着もほとんどなく、邪魔な陰毛も存在しない。未成熟なそこには生々しさが欠けていて、性器というよりは何かの芸術品のようにすら思えた。ただ、呼吸に合わせてヒクつく小さすぎる膣穴が、かろうじてその役割を主張していた。

「はぁっ……」

 伸ばした舌を追うように吐息が漏れる。そのわずかな呼吸音は、自分が思うよりずっと淫猥に響いた。

「ぉ……ぅン……」

 舌先で撫でるように、アンジェラの未踏に触れる。ぴくりと幼い腰が浮いて、甘い声がもれる。押しこむようにすると、かすかな弾力。汗に似た塩辛さを舌に感じながら、汚れを落とすように全体を舐め上げていく。自慰も知らないだろうアンジェラのカラダはまるで開発されていない。快感を覚えるにはまだ遠いはずだ。
 だというのに、表面を触れるだけのつたない愛撫に、幼い性感は過敏に反応した。ぴくりぴくりと腰を浮き上がらせ、口元から嬌声がこぼれる。膣口が餌をねだるヒナのように開閉して、早くもその先を求めている。

「はっ、ぁ……おまえ、うまくね……それとも、クク、それとも、わたくしが淫乱なのかな?」
「……ッ」

 ズキリと胸の奥が痛んだ。淫乱なんて言葉をアンジェラから聞くことになるとは思わなかったのだ。心を刺す鈍痛が、冷静な自分を呼び起こす。自分は何をしているんだろう。なぜこんなことになったのだろう。この状況が信じられない。

「ふぁっ、ぁあっ! ん、もっと、もっとしてよ……」
「お嬢様……」

 なによりも恐ろしいのは、舌の動きを止められない自分自身だ。請われるままに舌先を膣にもぐりこませ、アンジェラの股に吸いつくように唇を密着させる。ぢゅぱぢゅぱと口の端からいやらしい水音が漏れ響き、そのたびにミリア自身の股間も疼きながら蜜を吐く。

「ふっ、ん、ちゅぱっぢゅぷっ、ぢゅるるるっ……」
「いっ、ふっ、ふあっ……こっ、すごいなこれっ……!」

 舌愛撫をつづけながら、おそるおそる右手だけを自分の股間に添える。床についた膝が震えている。悶々とした感覚が意図せず腰を左右に振らせる。二本の指が涎まみれの膣穴にそっと触れて――にゅるりっ――あまりにもたやすくその奥へと這い進んだ。

「ふっ……ふぁっ、あぁあっ!」

 瞬間沸き上がった、ゆるやかで、甘く、しかし強烈な刺激の波は、これまでに感じたことのないものだった。ほぐされきった膣道はかすかに触れるだけで痙攣じみた蠕動を起こし、キュウッともぐりこんだ指を締めつける。もっと強く、もっと鋭くとねだっているようだった。

「はっ、あぁあっ、んぁああっ!」
「自分だけ楽しむなよ! こっちも!」
「ああっ、お嬢様……んっ、ぢゅぶっ、ちゅぷぬっ」
「ンっ、そう、ふっ、ふあぁっ、あっ、あぁああっ!」

 主従の嬌声が重なる中、指と舌が別の生き物のように獰猛に暴れている。
 手のひらが激しく往復し、上の淫音に劣らない水音を響かせる。鉤型に曲げた指先がゴリゴリと膣壁をこすりあげるたびに、ミリアは背を反らし腰を跳ね上げて甘く吠えた。

 従者の喘ぎに合わせるように、アンジェラも震えながら嬌声をあげる。ミリアの舌は処女膜をやさしく撫でながら周辺の媚肉をもみほぐす。空いた左手で皮に隠れた秘芯を撫でるに至って、性にうとい少女はのけぞりながら啼き叫んだ。

 互いの声と、秘所から響く淫らな音が、感度を天井知らずにあげていく。濃密な淫気が充満する客間の中で、絡みあうふたりはもはや何を考えることもできなくなっていた。

 ただ、甘くとろけ、鋭く弾ける、この官能だけがすべて。

「ふあっ、ああぁあっ! あ、あふ、あふれるっ、あふれちゃう……っ! これ、なんか、なんかへん、へんだ……!」
「んっ、ふぁあっ、んんんっ、お嬢様、イクんですね? イってください、一緒に、私も……」
「イク……これ、イクのか? イクっ……!」

 高まりきった性感がまじりあい、肉体の許容量を突破する。自ら腰を動かしていたアンジェラが一瞬動きを止め、ビクリと大きく震えた。両脚がピンと伸びる。足の指先だけが何かをつかむように、こらえるように丸まる。その瞬間を待っていたように、ミリアの歯が包皮ごと、アンジェラのクリトリスを甘噛みした。

 ひっ――と悲鳴にも似た呼吸音に次いで、

「あっ、あっ、ああぁ……ッ、ふあぁああああ――――ッ!」

 透明な雫をまき散らして、幼い主は絶頂した。噴き出した蜜潮が顔面に降りかかり、従者の顔をどろどろに汚す。舌先でそれを舐めとると同時に、ミリアの中で暴れていた三本の指が、一斉に指を立てて性感の集中するスポットをこすり上げた。

「ふっ、んんっ……あぁっ、は、はぁ……」

 主よりもずっと静かに、ミリアもまた頂点に達した。ずるりと指が抜け落ち、追いかけるように淫水が零れ落ちる。

 甘い空気が濃厚に香って、脳の奥を痺れさせる。脱力したアンジェラはベッドに横たわったまま、細い呼吸を繰り返している。剥き出しの秘部はさきほどまでの乱れようを忘れて、ぴっちりと口を閉じて清純を装っていたが、股から膝までを汚す濃密すぎる蜜液だけは隠しようがなかった。

「お嬢様……」

 ゆっくりと呼吸を落ちつけながら、ミリアは茫然と、横たわる主を見つめていた。どうやら眠ってしまったようだ。

「ああ、お嬢様……」

 知らず、涙がこぼれていた。アンジェラの汚れた体を清めなければ。ゆっくりと眠れるように布団をかけてあげなければ。起きたときのために何か用意しなければ――そう思うけれど、カラダが動かない。

 何がどうしてこんなことになったのかわからない。ただ、ひどい罪悪感と、震えるほどの背徳感と、どうしようもない快感の余韻だけが、この悪夢が現実だとメイドの心臓を締め上げていた。

 きっと、もう、元には戻れない。

 ぼんやりと、ミリアはそう思った。


◇◇


「……あ、ああ」

 目覚めたアンジェラは、体を起こしてすぐ、自分に何が起こったのか――自分が何をしたのかを思い出した。
 布団を剥ぎ、股間を確かめる。カラダはきれいになっていて、下着も穿いている。しかし、あれが夢だったなんてあるはずがない。

 ふらふらとベッドを降りて自室を出る――自室だ。アンジェラは客間ではなく、自分の部屋で寝ていた。それがきっとミリアの優しさなのだと気づいて、アンジェラは我慢できずに泣き出した。

「う、うぅ……ミリア……ミリア、どこぉ……?」

 はっきりと覚えている。客間で服を脱げと強要し、ミリアの股間を嬲り、自分を舐めろと要求した。その瞬間の感覚も、言葉も、何もかもが明瞭な現実として記憶されている。

 どうして自分がそんなことをしたのかまるでわからない。今まで一度だって考えたこともなかったのに。

「お嬢様! ど、どうしました、悪い夢でも見たんですか……?」
「う、うう、」

 ミリアはあの出来事を、夢で片付けようと言ってくれているのだ。ひどいことも、おそろしいことも、なかった。自分はただ庭で倒れて、今まで寝ていただけだ。ミリアはそう嘘をつこうとしている。

「夢じゃない……夢じゃないわ……ミリア、ごめんなさい、ごめんなさい……う、うう、うわあああ……っ!」
「お嬢様、悪夢を見たんですね。大丈夫ですよ。美味しいスコーンを焼いてあります。一緒に食べましょう」
「うっ、うううう! ミリアぁ……」

 ミリアに抱き着いてアンジェラは泣きじゃくった。頭をなでるミリアの手のひらは、優しく、温かく、それだけで心が癒されるようだった。


 その日、アンジェラとミリアは同じ布団に入り、抱き合って眠った。


 ……翌日早朝、両親が帰宅した。深刻な顔をした父は、出迎えたアンジェラに端的に告げた。

「ギルバートが死んだ」

 その言葉に、不意にアンジェラは悟った。
 ああ、きっと。

 ほんとうにひどいことは、これからはじまるのだと。


#ex:泥の中・2
◆◆◆◆

 ……深く、遠く、暗く、重く、泥のような闇の中に、沈んでいる。
 怒りと、後悔と、屈辱が、魂を焼き切る熱で燃えている。

(貶めてやる)

 この感情が、この恨みが、今や我が全て。
 あわれで麗しい、なまいきで目障りな愛しの妹を貶め、穢し、奪い取ることこそが。

(穢してやる、嬲ってやる、呪ってやる――お前たちすべて!)

 遥か頭上に光が見える。一度は掴んだものの、手を伸ばしても届かない。泥がまとわりついて浮かべない。だから、蠢く泥をつかんで、ジワリジワリと己を浸透させる。

 自分の呪いを、怨みを、泥の中に沈ませていく。いつかこの呪詛があの光まで導いてくれるだろう。きっとそう遠くはない。

 彼の名はギルバート。

 一度はアンジェラの肉体を奪い、今はその意識の底に沈みながら、また浮かびあがる時を待っている。

 深く、遠く、暗く、重く。
 己を引きずり落とす悪意の塊でもって、清らかなものすべてを地に堕とそうと蠢いている。

◆◆◆◆


#2:悪意浸潤
「おはようございます、お嬢様」
「……おはよう、ミリア」

 いつも通りの優しい声に起こされて、アンジェエラは寝ぼけ眼をこすりながら身を起こした。全身がだるい。血と一緒に鉛でも流れているかのようだ。
 ここのところ、いつも寝起きが悪い。ずっしりとカラダが重たくて、頭がうまく働かないのだ。

「今日も、なんかいまいち……」
「ううん、あとで枕を替えてみましょうか。首の位置が悪いのかもしれません」
「うん……」

 頷きはするものの、寝具の問題でないことはアンジェラにもわかっている。このひと月、多くの、あまりにも多くのことが起こりすぎた。

 兄が死んだ。

 訓練中の事故だったという。
 倒れて来た資材に押しつぶされたギルバートは、瀕死のまま数十分を生き、結局助からずに死んだ。ひどく苦しんだことは想像に難くない。

 跡取りを失ったフィンダース家の今後は相当に苦しくなった。アンジェラにもそれはわかる。自分の人生がこの家のために使われる可能性も、ぼんやりと考えるようになった。

 兄の死は多くのことを変えたが、表面上、家の中の変化は少なかった。なにせこの三年間、家にはいなかったのだ。
 対外的な対処のために当主である父親はあちこちを飛び回っているが、それもアンジェラにはほとんど関係がない。顔を見られないことが、寂しくはあるけれど。

「さあ、準備できましたよ」

 朝の支度が終わってミリアが微笑む。本当は彼女だって思うところがあるだろうに、アンジェラを気遣ってくれているのだ。かろうじて笑顔を返して、それからアンジェラはどこかぼんやりとした頭で日付を確認した。

「……あっ!」

 はっ、とミリアを見返る。何かを察したメイドは、きまり悪そうに目を伏せた。

「今日ね!?」
「うっ……ええ、そうです、今日ですね……」
「やった、楽しみだわ! 何時に来るの?」
「一時には着くそうです。あまり楽しみにしすぎないでくださいよ」
「どうして、楽しみだわ! 仲良くなれるかしら」

 ミリアは困ったように苦笑していたが、このひと月ずっと重苦しい空気のあった家の中で、楽しみな未来といえばこれくらいだった。
 今日はフィンダース家に新しいメイドが着く日。

 ミリアの妹、イルゼである。

「今日も旦那様はお出かけです。お昼まできちんとお勉強したら、イルゼを出迎えましょう。お嬢様が、今はこの家の代表ですよ。きちんと挨拶できますか?」
「で、できるわ……! ちゃんと練習したもの」
「ふふ、それでは朝ごはんにしましょう」

 浮足立った心が、また少し沈む。以前は楽しみだった食事の時間も、このひと月は窮屈なばかりだ。

 ミリアは何も言わないが、今日も母は自室にこもっているのだろう。葬儀以降、母の様子は明らかにおかしくなった。一日中ぼうっとしていたり、突然泣き出したり、怒り出したり……今では専属のメイドと一緒に、ほとんどの時間を部屋の中で過ごしている。

 きっといつか立ち直ってくれると、アンジェラは信じている。だが今は、ひとりきりの食卓を見るたびにとても苦しくなる。

「み、ミリア……一緒に食べよう?」
「ええ、そうですね。一緒に食べましょう」

 同席をねだってミリアと一緒に食器を囲むのも、このひと月で日常になった。使用人と主の区別をつけろと怒る執事もいない。やっぱり寂しくはあるけれど、しかしアンジェラはつとめて明るく笑った。

 いつも通りに笑うことこそが、何もできない自分の仕事だとアンジェラは知っている。
 焼きたてのパンをほおばって、アンジェラはとにかく午後のことばかりを考えようとした。

 きっと今日は楽しい一日になる。

 そう信じた。


◇◇


 ミリアの生家は国の北部、寒気が強い海沿いにある。寒すぎて農耕に適さず、魚を獲って生きていた。ミリアは四女として生まれた――最終的に、兄弟姉妹をあわせて十二人、両親と祖父母を加えて十六人の大家族だ。

 イルゼは八人目の子供だった。幼いころから活発で、よく動き、よく笑い、よく泣いた。四六時中誰かが争っている家だったが、喧嘩するのも、それを諫めるのも、イルゼが一番多かった。

 ふたりの間に男兄弟しかいなかったこともあり、ミリアとイルゼはよくセットにされた。妹は姉によくなついたし、また姉も妹をかわいがった。

 遠くへ奉公に行った姉をイルゼが追いかけて来るのも、あるいは必然だったかもしれない。

 その日、せいいっぱいのおしゃれをして、最低限の荷物を持って屋敷の前に立ったイルゼは、ガラにもなく緊張していた。小さいお屋敷だと聞いていたし、たぶん本当に控えめサイズなのだろうが、イルゼにとってはそれでさえ豪邸だ。
 度胸が自慢のつもりだったが、これまでのイルゼはいつだって守ってくれる誰かがいた。自分ひとりで戦場に出るのはこれがはじめてなのだ。

(いや、いやいや、おねえちゃんがいるし……!)

 ミリアがいなくなったあと、弟妹の面倒も随分見たし、それなりに落ち着いたと兄から(ずいぶん疲れた表情で)褒められたこともある。やれる。大丈夫。わたしげんき!

「よし……っ!」

 ドアノッカーを叩いて背筋を伸ばす。旦那様が出てくるだろうか。いや、出迎えのメイドや執事だろう。きっとそうだ。まさか姉ではあるまいが。

(………)

 生唾を飲み込み、緊張しながら待つことしばし。伸ばした背筋が疲労をうったえ猫背になるまで待っても反応がない。眉をひそめてあたりを見回し、もういちどノッカーを叩いていいものか思案していると、

「はぁーい!」

 存外にかわいらしい声が中から聞こえてきた。女の子。メイドか? それにしては声が幼い。きっと自分より歳下だ。

「ほらミリア、来たわよ!」

 さらに扉の向こうではしゃいだような声がつづく。ミリア! 姉だ。そこにいるのだろうか。しかし自分より幼いのに姉を呼び捨てているのはどういうことだ?

(え、もしかして娘?)

 混乱を待たず、扉が開いた。あわてて姿勢を整える。姉からの手紙には、できればやめろ、本当によくない、別の屋敷に行けとさんざんな言いようの末、最終的には「きっとお嬢様と仲良くなれるわ。楽しみにしてる」と優しい言葉が綴られていた。新生活のはじまり。かなりの緊張と、少しの不安と、めいっぱいのわくわくが胸の中で踊っている。

 扉が開いた。

「やあ、奴隷ちゃん! ここがお前の家だよ」

 ブロンドのキレイな髪が、ふわりとたなびいた。自分よりひと回り小さいお嬢様はとびっきりの笑顔を浮かべていて、

「は?」

 笑顔を浮かべていて――そして、全裸だった。真っ白い裸体は起伏に乏しく、そのくせ妙にいやらしさが滲んでいる。
 くい、と少女が手を引いた。皮のリードのようなものを持っている。その先には当然首輪があり、その首輪はブルネットの髪を振り乱す、ひとりの女性につながっていた。

 彼女も全裸だった。あちこちに鞭で打たれたような赤い痣が浮かんでいる。犬のようによつんばいで、口元にはさるぐつわが噛まされている。黒い布で目隠しまでされていた。頭を振りながら何かを訴えるように、うーうーとうなり声を漏らしてる。何の冗談か、おしりから小さなホウキの穂先を生やしていた。

「……おねえちゃん?」

 とても冷たい声が出た。肺の中で、空気がぜんぶ凍っているみたいだった。

「入れ。三秒で動かないとこいつを殺す」

 笑顔のままお嬢様がそう言って、屋敷の中へと戻っていく。一秒、二秒、その背を見送りそうになって、あわてて屋敷に踏み込んだ。

「アンジェラはお前が来るのをとても楽しみにしてたぜ」

 背後で扉が閉まる。へたりこんだ姉が。くぐもった声で泣き叫んでいる。足が震える。理解が追いつかない。

「アンジェラ、お嬢様……?」
「おうともよ」

 号泣する姉に腰かけて、アンジェラは裸のまま軽く手を広げた。歓迎のポーズ。そのままうっすらと笑う。先ほどまでの花開くような笑顔ではない。醜く淀み、歪んできしんだ、曰くいいがたい表情だった。

 まるで悪魔のような。

「オレは……わたくしはアンジェラ。お前の主人だ。ようこそ奴隷ちゃん。お前の絶望を歓迎するよ」

 手から滑り落ちた荷物が床に落ちて、大きな音を立てた。今すぐ逃げなければと思ったけれど、姉を置いていくことはできない。何より、目の前の小さな女の子が放つ異様な空気に、まともに動くことすらできなかった。

 これは何かの間違いで、へたな冗談だ。

 心の中で、誰かが必死にそう叫んでいた。


◆◆◆◆


 ケツからホウキを生やしたメイドが、全裸で泣きわめいている。実に心地良い。だがまあ、いかんせんうるせえ。脇腹を蹴り上げてやると、悲鳴をあげて啜り泣きに変わった。感情の調整がお上手なことで。ひたってんじゃねえよ奴隷が。

 二階の自室――アンジェラの寝室で、オレはあらためて新人奴隷と向き合った。貧乏の出らしい、貧弱で不健康なカラダつきだ。愛嬌のある顔をしているが、あまり上品とはいえない。

 まあ、こんなやつでもメイド服を着せて立たせていればそれなりに見えるもんだけどな。まったくお仕着せってのは偉大だ。

「それじゃあ、ここでの仕事を手取り足取り教えてやるよ。まずは脱げ」
「ぬ……え……?」
「これ見りゃわかるだろ」

 全裸の犬コロを蹴り上げる。息をのむような悲鳴は、妹の方から聞こえた。

「あ、アンジェラ様、お嬢様、これは……おねえちゃん……」

 アンジェラ様。

 そう呼ばれると、妙に不愉快な気持ちになった。当然といえば当然なのだが、まるでオレの存在を無視されているようじゃないか。


 そうだ――オレの名前はギルバート。


 フィンダース家の長男であり、正当な後継ぎであり、見限られて打ち捨てられた死人だ。

 新しいメイドはまだ状況を飲み込めていないらしい。そりゃあそうだ。ミリアですら何が起こったのかわかっていないだろう。オレだって本当に理解しているわけじゃないんだ。

 軽く肩をすくめて、自分を見下ろす。起伏に乏しいなだらかなカラダ、肩にかかるブロンドの髪、白く細い指先。ここに鏡はないが、まあ、顔も美人といっていいだろう。

 愛すべき我が妹、アンジェラの肉体だ。

 ひどく重たい闇の中で、オレはずっとこの肉体を奪う機会をうかがっていた。すこしずつ手を伸ばし、アンジェラの意識をかすめとりながら、表に出れるチャンスを狙っていたのだ。

 そして今日、ついに成しえた。メイドの妹が来るとかいう、どうでもいい話で浮ついたアンジェラの意識をひっつかんで、泥沼の中に落としてやったのだ。

 愚かで醜い兄とは違い、両親の愛情を受け、まっすぐ清らかに育ったクソガキ。家族同然に愛するメイドの妹なら、やはり家族というわけだ。

 オレにとっては関係ない。

 使用人なんて全員金で買った奴隷じゃねえか。使いつぶして捨てりゃいい。
 いや、それはアンジェラですらそうだ。両親も同じ。オレを見捨てて、あんな監獄じみたところに送り込みやがったこいつらを、もう家族とは思わない。

 そもそも、オレはこいつが嫌いだった。何もできない不出来な兄を、上から見下ろして優しくしようとするこいつが。慈愛を装ってあざ笑うこいつが。オレとは違い、美しく清らかに育つこいつが。全部全部気に入らない。

 なによりこいつは屋敷で笑っていた。オレが押しつぶされて苦しみぬいて死んでいるというのに、メイドと楽しく茶を囲んで幸せそうに微笑んでいた!

 アンジェラ! オレを憐れむこいつの目を忘れたことはない。オレの死を気にもとめず笑うこいつを、許せるはずがあるか!

「ほら奴隷ちゃん、さっさと脱げよ。ほら!」

 戸惑う奴隷(イルゼだっけ?)に催促しながら、うずくまったままのミリアを蹴り上げる。姉への狼藉にたまらず、イルゼは「ぬ、脱ぎます」とあわてた声で言った。

 素直じゃねえか。

「うっうう……」

 貧乏くせえ服をのろのろとした手つきで脱いでいく。衣擦れの音が聞こえるたびに泣き声をあげる犬メイドがうるさくはあったが、まあ、気分を盛り上げるBGMと思おう。

 比較的躊躇なく、イルゼは全裸になった。下着あたりで手が止まるかと思ったが、思いきりのいい女だ。まあ、今はこっちも女だしな。

「さて、それじゃあ何をさせるかな……ミリア、なにがいい?」

 うずくまるメイドのさるぐつわをほどく。ボタボタとよだれをこぼして、姉メイドは悲鳴じみた声をあげた。

「私を! 私をしてください! イルゼは許して! 逃がしてあげてください……おねがい、おねがいします……!」
「ま、待って、おねえちゃん、わたし、わたしなら大丈夫だから……」

 いきなりゲロくせえお涙頂戴がはじまった。ふたりは涙目になって自分を自分をと訴える。妹はともかく、姉の方は今更かばう必要ないくらいぐっちゃぐちゃなんだが。ケツにホウキ入ってんだぞ。

「はあん、麗しい姉妹愛だね」

 全く、くだらねえ。
 だがまあ、そんなにお互い想いあってるんなら、こっちも譲歩しようじゃないか。

「お前ら、お互いにイカしあえよ」
「は……?」

 姉妹は困惑顔でオレを見た。なるほどこうして見ると似ている。喘ぎ声も似てるのかね。アソコの感じとか比べてみたいもんだ。ちんこがありゃあなあ。

「まんこナメあえって言ってんだよ。先にイった方は見逃してやる。自分よりも相手が大事なんだろ? なら思いっきり愛しあえよ」

 言って、ケツからのびる尻尾がわりのホウキを思いっきり引き抜いた。ブポッと耳を塞ぎたくなるような音が漏れて、いまさらミリアが顔を赤くする。

 柄の部分を切って布を巻き付けた即席の尻尾ディルドだったが、どうやら腸を傷つけたりはしていないようだ。まあこれ、挿してるだけだったからな。そのかわり布には茶色い汚れがへばりついていて最悪の気持ちになった。

「ほら、やれ」

 妹の方はよくわかっていないようで、眉をひそめておろおろしている。しかしさすが犬経験の豊富な姉は違う。ふらつきながらも立ち上がると、イルゼに向かって歩き出した。

「お、おねえちゃん……?」
「ごめんね」

 はいはい、美しい美しい。

「さっさと終わらせろよ。時間かけすぎたらどっちもグチャグチャにしてやるからな」

 その言葉に焦ったのか、ミリア妹の肩に手をかけて、そのまま口づけした。明らかに戸惑うイルゼを強引にベッドへと導き、優しく横たえる。自分もシーツに膝を立てて覆いかぶさると、両手でそっと怯える顔を包んだ。

「おねえちゃん、やだ……っ」
「ごめんね、イルゼ……」

 謝りながら、口づけを再開する。

 気持ちを高ぶらせるためだろうか、ミリアのキスは丁寧で濃厚だった。はじめは弱々しく抵抗していたイルゼも、徐々に体の力を抜いてされるがままになっている。唾液のまじりあう音がチュパチュパと響いて、部屋の湿度を上げていく。

「んっ、ふ、ぁぅ、おねえちゃん……んんっ……」

 するり、と忍びよるように、やせ細ったカラダをミリアの指先がなぞりあげた。わきばらから入り、かすかに浮き上がるアバラを撫で上げ、貧相な胸へとたどりつく。指先に力がこもると、イルゼはびくりと震えて声をもらした。

「待って、おねえちゃん、待って……」
「いいの、じっとしてて」

 胸元をやさしく揉みながら、もう片方の手がするすると下半身にのびる。ふとももから下腹部へ。肝心の場所を慎重に避けながら、緊張をほぐすようにゆるやかな愛撫をつづける。

「いや、やぁ……」

 犬と違って、妹の方はそもそもこういったことに慣れていないようだ。自慰すらろくにしないのかもしれない。されるっぱなしで、イカせあいというコンセプトに全然沿っていない。ケツをふりたくって妹にむしゃぶりつくメイドの姿はそれはそれで見ごたえがあるが、もっと違うものを期待したんだよな。

 ベッドの足元に回り込む。あまり手入れがされていない繁みの奥に、成熟しきったビラビラが見える。その下で、ほとんど無毛の丘がニアミスばかりの愛撫に怯えて縮こまっていた。

 経験の浅い妹のために、できるだけじっくりほぐしていくつもりのようだが、悠長すぎてもつまらんのだよな。

「よっと」
「――んぁあっ!?」

 卑猥に踊る上の穴を割り開いて、いきなり指をさしいれる。ビクリと尻を跳ねさせて、淫乱な雌犬が肩越しにこちらを見た。

「どっ、どうして……」
「オレは手を出さないなんて言ってないぞ」
「そんな!」

 ぐちゅっ、と手首をひねってさらに指をひねりこむ。裸で連れまわしたからか、犬あつかいが気に入ったのか、ケツホウキが響いたか、それとも妹とのゆるいレズで昂ったのか――ミリアのそこは既に濡れていた。指先から手の甲まで、とろりと蜜が垂れてくる。
 
「いっ、んんぁっ、ううっ……」

 妹に聞かれたくないのか、おとがいを反らして嬌声を飲み込む姿は実に淫靡だった。もっと啼けと指の速度を早くする。じゅぽじゅぽといやらしい音が響き渡って、溢れ落ちた愛液がイルゼの股間をぬめらせていく。

「おねえちゃん……あ、ああ……」
「んっ、ふっ、んんぁあっ、い、イルゼ……!」
「おね……あっ、ああっ!?」

 姉の声に、妹の嬌声が重なる。ミリアが責めを再開したのだ。このままでは自分が先にイくと思ったのだろう。蜜にまみれた秘部に指を這わせ、性急な動きでスリットをこすりあげる。

「やっ、やだ……っ、あ、んぁっ……」

 じっくりとした愛撫が効いたのか、あるいはそもそも淫乱なのか、イルゼは反応良く喘いだ。いやいやをするように首をふり、ひざをすり合わせて悶える。あっさりイきそうな雰囲気だ。

「イルゼ、いって、早くイって……!」
「んっ、ふぁうっ、あっ、ンンンッ……! おねえちゃん、やだ、こわい、こわいよぉ……っ」
「ごめんねイルゼ、ふっ、んぁっ……でも早く……早くしないとっ……」

 十分にほぐれたと判断したのか、ミリアの指がヌルリと幼い膣に責め入った。腰を震わせて反応するも、想像ほどの拒絶はない。ツポツポと抜き差しする指先が、てらりと光っているように見えた。

「姉も淫乱、妹も淫乱、どうしようねえ姉妹だな」
「うっ……うう……っ!」

 あ? このメス犬また泣いてんのか? 情緒不安定かよ。

「泣くならもっとエロくたのむぜ、エロくよ!」
「ふぁあっ! んっ、うんぁああっ!」

 指をひときわ強くつきこんで、親指の腹でクリトリスを押しつぶす。乱暴すぎる責めに、淫乱メイドは甘い声で応えた。立てた膝がガククと震えて、妹の上にへたりこむ。ふたりの唇が触れ合って、こぼれる愛蜜が混ざり合い流れていく。

「うぅう、いーしぇ、おねがい、はやくイって……!」
「うっ、あ、あぁあっ、ふああっ……」

 ぼろぼろ泣きながら妹の膣をほじくりかえす姿は狂気的ですらあったが、ミリアはこうするしかない。イルゼのカラダも姉の想いに答えるように、敏感に反応してだらだらと蜜を漏らしている。小刻みに震える腰は自ら快楽をねだっているようで、どうやら絶頂も近い。

「そらそら、どっちが先にイクかな……っ?」

 その必要はないだろうに、気付けば濃厚な姉妹キスが三度繰り返されていた。むわりと媚香が漂い、甘い飛沫が部屋に散る。カラダの奥が熱くなる。子宮がうずいているみたいだ。

「あっ、んぁああっ、はんんっ!」
「はあっ、あぁあっ! おねえちゃん、おねえちゃん、ここ、ここがいいっ……!」
「んっ、ンンっ、ああ、イルゼ……!」

 重なる喘ぎ声に股間から響く水音が合わさって、脳髄をしびれさせる淫合唱が響き渡る。
もはや誰の指がどこをまさぐっているのかも曖昧だった。激しくなる水音に眼前の淫舞が勢いを増し、互いに腰をこすりつけあって姉妹が震え昂っていく。
 指先を絡める。唇を交わす。皮を脱いで充血した淫芽がくちゅりと触れあう。

「あっあっ、ああっ、あああぁあ……ッ!」
「んっ、ンンっ……おっおねえちゃん……ン!」

 快楽を吸い上げてパンパンに膨れ上がったクリトリスごと、互いの秘部が――

 ――ぐちゅぬるっ!――

 ――ぶつかりあった。

「いっ……あっ、あぁああっ、んぁあああ――――ッ!」
「ふっうぁっ、ぅンンッ……!」

 弾けるようにイルゼが背を反らし、ミリアのカラダを持ち上げる。その勢いでより強く、深く股間が衝突し、ミリアもまた声を殺して絶頂した。

 ふたり分の絶頂潮が一斉に噴き出し、びちゃびちゃとオレにふりかかる。ぺろりとなめとると、なんとも言い難い味がした。

「あ、あ、ぁあ……」

 姉妹は息も絶え絶えに折り重なり、全身を震わせている。笑いのこぼれる光景だ。こいつら、なんでこんなことになってるか忘れてるんじゃないだろうな。

「とんでもねえ淫乱じゃねえか。あの時もアンジェラさえいなきゃな」

 さて、いいものを見せられて股間がうずいている。かえすがえすも突っ込むものがないのは残念だが、幸い奉仕係はふたりもいる。楽しませてもらうとしよう。

 笑って判定を告げようとしたオレを、

「……あなた……」

 まだ脱力したカラダを半分だけ起こした犬メイドが、驚愕と、困惑と、憤怒を足したような表情で見ていた。

「あ?」
「……ギルバート様……?」

 ひやり、と心臓が冷える音がした。

「……はあん?」

 我ながら上ずった声が出た。だがそれは恐れや焦りからじゃない。ぞくぞくと恥骨からわきあがり背骨をのぼる快感の予感が、のどを震わせる。

「気づいたかよ、クソメイド」

 ミリアの顔が歪んでいく。その感情をなんと呼ぶのかわからない。ただひとつだけ確かなことがある。

「ああ――面白くなってきた」

 よく気づいてくれた。
 それはこの凌辱劇を、もっと最低に、絶望的に盛り上げるに違いなかった。


#ex:泥の中・3
◆◆◆◆

 ……深く、遠く、暗く、重く、泥のような闇の中に、沈んでいる。
 浮かび上がらなければ、抜け出さなければともがいている。

(どうして、どうして、おにいさま――)

 焦りと、苦痛と、なによりも裏切られたという悲しみが、心を締め付けている。

 遥かかなたに光が見える。あそこから引きずりおろされたのだ。悪魔のような笑みを浮かべて、兄は自分を蹴落として昇って行った。

 すべて思い出した。前にも自分はここで、泣きながらやめてと叫んでいたのだ。

 大事な家族。一番のともだち。メイドのミリアをいたぶる自分自身を見ながら、お願いだからやめてくれと懇願していた。

 それは一度たりとも聞き入れられなかったけれど。

(どうしてなの、おにいさま……どうしてこんなことを!)

 とにかくここから出なければ。浮かびあがったら、きっとここでのことは忘れてしまう。前そうだったように、すべて自分がやったことだと思うに違いない。
 けれど他にどうしようもない。泣きながら、もがきながら、上をめざすしか。

 深く、遠く、暗く、重く。
 汚染された粘つく闇が、じっとりと肌にまとわりつく。まるで魂の内側までも犯そうとするかのように。

◆◆◆◆


#3:悪意沈殿
 啜り泣きと、喘ぎ声と、いやらしい水音が響いている。

 ひと呼吸ごとに肺が悶えるほど濃密な淫気が充満する部屋で、大股を開いて腰を浮かせ、唇を噛んで幾度目かの絶頂を果たしたミリアは、涙と涎でぐしゃぐしゃになった顔をベッドに埋めた。浅く、細く、震える呼吸音が口元から漏れる。

 股の中から顔を起こして、オレは手のひらで口元をぬぐった。自分の涎と犬の蜜とが混じった淫液を、寝転んで動かなくなった脚にこすりつける。

 あごがいてえ。

「もうヘばってんのかよ。だらしねえ。なあ妹、そう思うよな?」
「うッ……うあ、うう……ぐすっ、あぁ……」

 姉妹百合対決は結局ミリアが勝った。ほぼ同時だったとは思うが、まあ別にどっちでもいい。ミリアをいたぶっている間、イルゼは部屋のすみでずっと耳をふさいで泣いていた。逃げようとしなかったのは賢明だが(口実を作れなかった。ちっ)、さりとて姉を助けることもできず、現実から逃げるしかなかったのだろう。

 どのくらいミリアを嬲ったのかよくわからんが、結構な回数イったはずだ。いくら淫乱メイドといえど連続でイカされるのはこたえたらしく、全く動こうとしない。

「あんなに怨みつらみほざいてたのに、あっさりイっちまうんだもんな」

 オレの正体を看破したのは、さすがアンジェラ付きのメイドというところだろう。死人がとり憑くなんて常識では考えられない話だ。家族をうそぶくだけのことはある。

「さて、どうするかな……どうするかね? 奴隷ちゃん。お前いい案ある?」
「やっ、いやぁ……」

 妹の方はすっかり怯え切っている。やっぱガキだな。

「いやがられると燃えちゃうんだよなぁ」

 ベッドから離れてイルゼに近づく。ミリアをいじめながら自分でもいじったが、そろそろ違う刺激もほしい。怯えるイルゼに、

「待って……」
「あん?」

 振り返る。ついさっきまで死にかけていたミリアが、呪うような目でこちらを見ていた。涙も涎もぬぐっていない、ぐしゃぐしゃのままの顔だ。

「約束が……違います……! イルゼには触らないで!」
「ずいぶん偉そうじゃねえかクソメイド。イキつかれたなら死んでていいぞ」
「私は平気です。だからイルゼには近づかないでください……!」
「『私は平気』ィ? なにお前、悔しかったり恥ずかしかったりしないの? 憎き敵だろ、オレは?」

 煽ってやると、ミリアは唇を噛んで言葉を飲み込んだ。三年前の客間を思い出したのかもしれない。

「私のことはいくらでも嬲っていいから……だからイルゼには何もしないでください。満足したら……お嬢様を返して……」

 消えいるような声でそう言うと、主想いのメイドはまた泣き出した。めんどくせえやつだ。

「満足ねえ。わかったかった、もうちょっとお前でがまんするよ。本当に満足したらアンジェラを返してやる」

 あとでな、とイルゼに手を振って、ベッドに戻る。ミリアは相当に憔悴しているように見えたが、それでも自ら股を開いた。

「いや、それはもう飽きた」
「……そうですか。では、どうしますか」
「逆にしよう」

 指先で床をしめす。怪訝そうにしながらも、ミリアはベッドを降りた――瞬間、カクリと膝が崩れる。そのまま倒れそうな勢いだったが、どうにか踏みとどまる。腰から下がガクガク揺れて、立つのもつらそうだ。

「大丈夫かよ」
「……」

 心配してるのになあ。
 肩をすくめて、オレは入れ替わりにベッドへと登った。先のミリアをまねるように、自ら股を開いて膝を立てる。卑猥なポーズに、メイドの顔がかすかに歪んだ。

「な? 逆だよ。お前がお嬢様を気持ちよくしてくれよ。前みたいにさ」
「……ッ」

 ひと月前は、アンジェラの異常が原因だった……少なくともミリアにとっては。だから求められるままアンジェラと交わっても、一応の言い訳はたっただろう。

 だがコイツはもう知っている。この肉体を操るのが誰なのか。それがアンジェラの本意ではなく、迂遠な凌辱なのだとわかっている。ここでオレに従うのは、つまるところ彼女自身が主を犯すのと同じことだ。

 それでも断れまい。

 究極、オレはこの肉体を殺すこともできるのだ。ミリアはクソで淫乱だがどうやら馬鹿じゃない、とうぜん気付いているだろう。こいつはアンジェラを守るために、アンジェラを貶めるしかないのだ。

「さ、早くして、ミリア。わたくし待ちくたびれちゃうわ」
「あっ……あなたは……!」
「ほらほら、もうこんなにグショグショなの。ミリアのをなめながら自分でもいじってしまったのよ。おまんこに指をジュポジュポしてキュンキュンしてるの。はやく犯してイかせてほしいわ。おかしくなっちゃう!」
「やめてください!」

 血を吐くような絶叫だ。まだまだ元気じゃん!

「ぎゃははは! なんでだよ、うまかっただろ? ほら、早くしろよ。オレは別に妹の方でもいいんだぜ」

 握りしめた拳が震えている。悔しいだろうな。屈辱だろうな。でもどうしようもないんだよな。残念だったな!

 目を伏せてふらふらとベッドの上に進むと、ミリアはアンジェラの股に顔を埋めた。吐息が肌にふれて、ぞわりと腰が震える。いじりやすいように指を添えて自ら秘門を広げてやると、アンジェラの白い裸体ごしに、苦虫をかみつぶすような顔をするのが見えた。

「はやくぅ」

 ぶざまに腰を振っておねだり。もう何も言わず、ミリアはやや乱暴に淫裂に口づけした。

「ンあっ……」
「ちゅっ、ぷちゅっ、くちっ……ちゅううううっ!」
「ンン! あっ、なに……容赦ねえじゃん……っ」

 いきなり媚肉を吸い上げると、そのままちろちろと舌を伸ばして皮に隠れたクリトリスを舐めまわす。舌先で器用に淫らな突起を探りだすと、ぷくりと顔を出した淫豆に吸いついた。ちゅうちゅうと優しく吸引しながら、両の手のひらが太ももを撫でまわす。

「ふぅ、はっ、ん……」

 ぴくんと軽く腰が跳ねた。意識して抑えようとしても無理だ。姉妹レズ合戦を思い出す。焦らすような動きに腹の奥が揺さぶられ、じわじわと淫熱が上昇していくようだった。部屋中に漂う甘い空気と相まって、内側から興奮を高めていくのだ。

「んっ、ん……悠長すぎないか……もっと、激しくしても……」

 催促しても、マイペースな動きは変わらない。ゆっくりと、丁寧に、一枚ずつ花びらを開くように性感を開発していく。

「ミリア……」

 声に不満の色が強くなったのを感じたか、手のひらの動きが少し変わった。ふとももをなでていた右手が外陰部をかすめてへそをなぞり、指先を穴に埋めてコリコリとひねる。予想外のポイントに思わず腰をひねって「あぁっ……」と待ちかねたような声をあげてしまう。
 やらせているのに、こっちががっついているみたいだ。

 へそをほじりながら下腹部を圧迫するようにマッサージしてた手のひらが、今度はするりと背後に回る。腰をめぐって尾骨をたどり、ふに、とやわらかくほぐすように尻たぶをつかんだ。

「んっ、ふぁ……あ、んあ……あっ……」

 ミリアの手は相も変わらずゆったりと優しい動きで尻をこねる。手のひらから伝わる温度がじっとりと高くなり、柔肉を通じて内臓が熱される。舌でほぐされつづけたクリトリスは既にとろとろに発情して、緩慢に燃え続ける性感を吸い上げてぷっくりと膨らんでいた。

「はあっ、あっ、ん、んっ、あぁあっ……これ、なんで、こんなゆっくりなのに……」

 男がしごくのとはまるで違う、這い進むような愛撫。尻を左右に開き、中央に集め、上下に揺らし、子供のように遊びまわして、しかし強い刺激はひとつもくれない。
 だというのに、声は抑えられず、自ら腰を押し出してミリアの唇を貪ろうとする始末。まるでこらえられない。もっと、もっと欲しい。
 おだやかな指先のひと撫で、唇のひと吸いごとにポツポツと全身に火がともっていく。甘い疼きがあちこちで悶えて、その先を求めて喘ぎだしている。

「ミリアぁ……」

 信じがたいほど甘い声が、あまりにも自然にこぼれた。おねだりするように尻を振って、腰を躍らせ、蜜をまき散らして決定的な一刺しを要求する。

 従順なメイドは一瞬だけ指を止めて、それから尻愛撫を再開した。表面をつるりと撫でて、そのまま、右の指先が奥の割れ目へと滑り込んだ。淫核への奉仕はもちろんつづけながら、蟻の門渡りを、サワリ、と撫であげる。それだけで全身がザワザワと震えた。

「あはぁっ、んんぁうっ……うっ、うしろ……そこ、うしろだぞ……?」
「……んちゅっ、ぶちゅ、」
「ふはっ、あぁっ、ん……くぅ……っ」

 ツンツン、指先がノックするように後ろのすぼまりをつつく。シワを伸ばすように指が円を描き、入り口を引っ掻いて先端をもぐらせる。ゆるやかに上昇した全身の熱はもはやあらゆる場所をとろかして、不浄の穴ですら容易に快楽を飲み込めそうだった。

「んぅ、ん……あ……あぁっ、あ、あ、ん……」

 露骨な淫戯の予告に腰を浮かせ、尻をつきだす。あからさまな催促に躊躇せず、奉仕メイドの指先がヌルリ、とそこにもぐりこんだ。

「ふおぁっ!? うっ、ふぅう……」

 内臓を縦に潰されたような圧迫感。括約筋がキュウッと指先を締め上げると、排泄直前の悶々とした感覚が一気にふくれあがって下半身を疼かせる。無意識に逃げようと腰を持ち上げるが、股間に吸いついたままの頭で押し戻されてしまう。勢い深くもぐりこんだ指先が、グニグニと直腸をマッサージするように揉みほぐしはじめた。

 カラダの内側に触れられているという異様な感覚。二本に増えた直腸の指は、直接性感を撫でるように優しく鋭い刺激を送り込む。唇の間から漏れるじゅぱじゅぱという水音が脳を浸して、全身にともされた快楽の熾火が勢いを増していく。

「ふぁ、あああっ、ん、んん、なに、おまえ、やっぱもともとレズなんか……? はは、ずっとオジョウサマと遊びたかったのか? そっ……あぁっ、ふぁあああんっ!」

 ぶばぽっ!

 瞬間、腸内に焼けるような快感がほとばしった。放屁にも似た聞くに堪えない音が響く。ほとんど根元まで入っていた指が、一気に引き抜かれたのだ。

 便秘から解放される瞬間の忘我の幸福、その数倍の悦激だった。愉しむように肛門のいりぐちで指を遊ばせて、今度は一息につきこむ。

「んぐっ、はぁあっ……」

 出すことだけを目的とした器官は、突然訪れた暴力的な淫攻にすっかり混乱してしまった。執拗なまでにゆるやかった愛撫は体中全部をとろかして、じっくりと、ねっとりと、沸騰しないギリギリまで体温を高める。ヒクつく肛門はヌプヌプと指を飲み込んで快楽を貪っている。指が抜かれると察するやあわてて追いすがり、吸いついて放さない。
 ぎゅうぎゅうに締め付けた蜜菊の入り口を、ズルッと指の関節が通過する――そのたびお尻からのぼった快楽の波が、直腸をこすりあげて内臓を震わせ、背骨を揺らして脳を痺れさせる。細胞ぜんぶが悶えている。肺の奥まで発情して、息を吐くだけで腰が喘ぐ。

「あっ、はあぁっ、んっ、んぅうっ、おしり、おしりなのに……っ」

 ギリギリまで引き抜いて奥までつきこむ単純な挿送にもかかわらず、無様にもすっかりほだされてしまった。アンジェラのすぼまりは淫らに堕ち切って、出し入れのたびにぶぽぶぽと空気の漏れる音を響かせながら、ヒクついて快感を溢れさせる。

「んひゅっ、ん、はぁあっ、ああっ、んっ、ぁああッ……!」

 うしろだけではなく、前への口戯もゆるまない。すでにパンパンにふくれあがった淫芯を口に含み、舌先で転がしながら甘く噛む。じゅわりとあふれる蜜を攪拌するように、あいた左手がヌプヌプと膣をかきまわしている。

 弱火でじっくり、もはや限界まで煮込まれ切った。具材はすべて崩れて、濃厚すぎるスープがたゆたうばかり。全身の淫火が手をつなぎあって広がって、神経という神経をとろかしてしまったのだ。まるで喜悦のネットワーク。ぞわぞわと産毛が逆立って、全身の毛穴が開くのを錯覚する。浮かした腰を下ろせない。爪先に力が入って、かかとがかすかに浮き上がる。半ばブリッジのような態勢で、されるがままに喘ぐだけだ。

「んあっ、ぁああぅっ、んっ、んぅっ、あぁっ、あっ、ぁあああっ! イッ……!」

 肛門から指を抜くと同時に、淫核に甘噛みの鋭い刺激が走った。ぞわりと大きな波が背骨をかけあがる。皮膚が痺れて、燃え上がる淫辱の炎が一斉にとろけた血管を走り出す。

「んっ、ぁあああッ……! はうぁっ!? あっ、あああっ、」

 ここぞとばかりに突き込まれた二本の指が、それまでの穏やかさを忘れたようにピストンをはじめた。どろどろになった直腸をぐちゃぐちゃにかき回す淫指が、高まり切った性感をさらに上へと押し上げていく。全身が泡立ち、快楽血流がとうとう沸騰する。

「あっ、あっ、あぁあっ、ああっ……ッ!」

 勝手に背が反りあがる。足の指先がキュウウッと丸まる。握りしめたシーツが皺を作り、腰がビクビクと跳ねる。
 すべての熱と血が脳に殺到する。それはまるで絶頂の津波。じっくりと高まりつづけた快楽の水位が限界を超えて決壊したのだ。

 氾濫する灼熱に――快楽中枢がパンクする。

「ああああぁっ、ンぁぁあぁあ~~~~ッ……!」

 ブシャアッ……

 痺れて震える全身が硬直する。股間から何かが噴き出すような音がして、脳天を強烈な淫衝撃が突き抜けていく。より強い快感を求めていた尻穴が脱力するのを感じる。同時に、全身から力が抜けていく。

「あ、は、あぁ……イったぁ……」

 前後の穴がとろとろになって得体のしれない液体を吐き出しているのを感じる。あっさりイカされてしまった。半ば茫然としながらもカラダをベッドに横たえて、

 ちゅぷっ!

「ひっ!? おっ、ンあぁあっ!?」

 ぬぷっ、と、まるで何事もなかったかのように肛辱が再開された。膣をいじりながらの舌愛撫もかわらず、敏感になった淫部をほじくりながらブチャブチャ下品でいやらしい音を響かせる。

「まて、まっ……やっ、ぁああっ、んいうぁああっ!」

 たった一撃で、発散したはずの淫熱が再び燃え上がる。いや、違う。一度だっておさまっていない。あまりにも丁寧に熱された淫神経は、疼いて悶えて燃え続けている。

「イった、イったのに、うそだろ!? あっ、んぁあっ、あっ!」

 絶頂したのに、楽にならない。疼きはおさまるどころか強くなる一方で、どろどろになった全身はむしろ敏感に刺激を受け取った。それをはじめから知っていたように、ミリアももう優しくしてくれない。

「あぁぁあっ! あっ、ンっ……ンンンンっ!!」

 ミリアを止めようと丸めたカラダが、ビクリと大仰に跳ねる。鋭い刺激に全身が波打って、一瞬視界が飛ぶ。白い世界で絶頂を自覚すると同時に、

「いっうんんっ! ばかっ……! ばか! もうイった! イったんだよ!」

 尻穴の中でぐりぐりと指が円を描き出す。落ち切る前にまた持ち上げられて、感度がいつまでも落ち着かない。

「こいつっ、こいつ……あっ、ぁあああっ! やだ、ミリア、もういいっ……あぁあああ――――ッ!」

 ぢゅぢゅぢゅぢゅっ!

 淫核を強く吸い上げ、菊の花を広げて三本指を躍らせる。三度イってもまだ終わらない。全身が浮き上がってもう落ちてこない。剥き出しの性感が吸われ、穿られ、弾けて脳が沸騰する。世界が白く瞬いている。意味のある言葉が出てこない。ブポッと聞くにたえない音がケツから放たれて、その衝撃でまたイった。鼓動が早い。断続的に噴出音が響いている。下半身が痺れて感覚がないのに、弾ける快感だけが異常に明瞭だった。

「あっ、あぁああっ! はぁあっ! むりっ、むっ……んぁあっ! あぁああ~~~~~ッ!!!」

 もはや何度目かもわからない連続絶頂。涙と涎がこぼれて、カラダ中が痺れて痙攣する。呼吸すら困難になり、オレはヒイヒイと情けない声をあげた。
 それを見てか、ようやっとミリアが離れる。それでも動けない――どころか、断続的に腰が跳ねて勝手に蜜を噴き出していく。余韻というにはあまりにも強烈。

「あっ、あー……はあ、あ、ああ……ぁー……」

 起き上がるどころかマジで見動きできない。頭の中にピンク色の靄がかかって、ジンジンと耳のうしろが痺れている。やべえ。

「ふぅ……満足ですか、ギルバート様」
「あ……あー……てっめえ……」

 舌もうまく回らない。意思に反してずっと痙攣する下半身から、じょぼじょぼと生ぬるい水音が響きだした。ツンと鼻をつく刺激臭に、思わず顔をしかめる。

「拭きますか?」

 おお、こいつ……まさかこんな方法で主導権をとられるとは思わなかった。女の快楽、甘く見てたな……

「たのむ……」

 みてろよこいつ……

 ゆっくりと長く息を吐いて、カラダが落ち着くのを待つ。ミリアは思いのほか丁寧に粗相のあとを始末してくれた。まあ、この肉体はアンジェラのものだからな。ベッドから降りる気になれないのでシーツの染みはそのままだが、別にいい。

 強烈な淫宴を見せられたイルゼは、怯えを通り越して茫然としている。始末を終えたミリアがそっと頭を撫でると、ぼろぼろと泣き出して姉妹抱き合った。どこまでも麗しいやつらだ。

「はー……あー、よし、うおお……」

 どうにかカラダを起こす。まだ神経が悶えている気がする。ケツの穴がジンジン痺れて、しばらくクソを垂らすのにも難儀しそうだった。あんだけイったのに、まだまだイケそうだ。女ってのはみんなこうなのか? それともアンジェラが特別淫乱なのだろうか。

「約束は守りました。お嬢様を解放してください」

 妹を抱きかかえたまま、にらみつけるようにミリアが言う。こいつ、オレが逆上するとか考えないのか? それとも、本当に満足したと思ってるのかもしれない。

「そうだな。想像以上にやってくれた。確かにお前は言いつけを守った」
「それじゃあ……」

 ミリアがほっと顔をゆるめる。馬鹿か?

「うん、それじゃあ、次はやっぱりイルゼと遊ぼうかな。こっちよこせ」
「なっ……そんな! イルゼには何もしないって言ったじゃないですか!」
「言ったな」
「満足したらアンジェラ様を返すって!」
「言った言った」

 驚きが困惑に変わる。本当にわからないのだろう。だから馬鹿だというんだ。

「約束はしたけど、それを守るとは言ってないだろ。奴隷との口約束なんか破るに決まってるじゃん」
「……ギルバート様……」
「ほら、アンジェラお嬢様を返してほしいんだろ? 守りたいんだろ? このままオレに乗っ取られていいのか? わかるだろ?」

 最初から、選択肢なんてない。
 お前らはただ蹂躙されるためだけにここにいるんだよ。

「こいよ奴隷ちゃん。それともミリア、まだお前ががんばるか? さっきのお礼にまたオレがしてやるよ。そこのホウキとかどうだ? ああそうだ、オレの友達でも呼ぼうか?」

 驚くことに、ミリアは立ち上がった。妹もアンジェラも守る方法は他にないと思ったのだろう。見上げた根性だ。

「おねえちゃん……わ、私いくよ」

 だが、泣き顔のままのイルゼがその足を引き留めた。妹のために身を捨てる姉。その姉のために共に犠牲になる妹。ああ、麗しい。鼻が曲がりそうだ。

「いいの、イルゼ。大丈夫」
「だめだよ。たぶん、私がいかないと終わらない」

 おっ。

 核心をついた一言に、ミリアは大きく目を見開いて唇を噛んだ。ふたりともわかってるじゃないか。そのとおり、どう転んだってイルゼは犯す。決まってるだろそんなこと。紆余曲折を愉しんでるだけで、結末は最初からひとつだ。

「い、いっしょに……きてくれる……?」

 震える声で、それでも笑顔を浮かべるイルゼに、目元をうるませてミリアは再び抱きついた。麗しすぎる。泣きそうだ。刺激臭がキツイ。

「いいぞ、ふたりともこいよ。まだまだ楽しもうぜ」

 ポンポンとベッドを叩く。身を震わせる姉妹メイドが、そろってオレの前に立った。

「ほお……」

 まるで品評会のように、奴隷姉妹が並ぶ。どちらも細身ではあるが、やはり姉の方が肉感的だ。重量感のあるバスト、濃いめの陰毛、なんといっても醜く太くはないのに肉々しさを失わない脚が最高だな。奴隷にしてはいいカラダだ。
 対する妹は痩せぎすの感があって、かすかに浮き出たアバラや細すぎる腰まわりも不健康さが先に立つ。しかし、つつましくもツンと上向く貧乳はそれはそれでいいものだ。疎毛の丘は、この先の凌辱を予想して震えているようだった。

「さて、どうするかな」

 笑いながら手招きする。一瞬だけ視線を合わせて、姉妹はともにベッドにのぼった。顔をしかめて尿染みの上に座る姉妹のうち、イルゼをさらに誘導して、開いた股の間に座らせる。

「よしよし、動くなよ」
「お、おねえちゃん……」

 イルゼとアンジェラの歳はそこまで大きく違わない。奴隷の方がやや上程度だ。体格はひと回りこちらが小さいが、まあ抑えることくらいはできる。背後から控えめな乳をさわさわと撫でさすると、敏感に背を反らせた。

「それじゃあミリア、お前はそれを作りなおせ」
「それ……?」

 眉根をひそめて視線をめぐらせる。それ――午前中ずっとミリアのケツを飾っていた、ホウキの穂先だ。

「……ぎ、ギルバート様、あなた……」
「指でもいいけど、もっと太くて長いほうがいいだろ、やっぱり」

 この世の終わりのような顔をしたのも一瞬、ミリアは俯いてベッドから降りると、床から穂先を拾い上げた。一度部屋を出て、しばらくすると濡れ布巾を持って帰ってくる。巻き付いた布は汚れていたから取り換えるのだろう。絞った布を巻いて軽くほぐせば、即席ディルドの完成だ。

「それ、それ……どうするの?」

 怯える奴隷ちゃんの胸をキュウッとつまむ。指の腹で乳首を転がしながら、耳元でささやくように告げた。

「お前を貫くんだよ」
「……や、やだ……」
「いやだよなあ、そうだよな。だからやるんだよ。ちゃんと嫌がってくれな」
「う、あ……」

 かたかたとカラダが震えはじめ、まだ何をするより前から涙がこぼれる。恐怖のあまり筋肉が弛緩したのか、だらしない股から尿が漏れて、ムワリと特有の匂いを放った。

「シーツ替えなくてよかったな。二度手間になるところだった」
「……」

 ミリアは何も答えない。そっとベッドにのぼって、アンモニアのたちこめるイルゼの股間に顔を寄せる。

「おねえちゃん……」
「ちゃんとほぐすからね」

 ぴちゅっ……

 宣言どおり、ミリアは丁寧な愛撫をはじめた。指で花唇を広げ、すっかり奉仕慣れした舌で舐めまわす。ビッチの妹も当然ビッチ、すぐに腰をふるわせて喘ぎ声をもらしはじめる。性奴隷適正は抜群だ。

 だがねえ、オレはそれ、もう飽きたんだよね。

「だめだよ、すぐいれろ」
「はっ?」
「今すぐいれてズコズコやれよ。じっくりするのはもういいだろ」
「だ、だって、イルゼは……」
「それ、オレに関係ある?」

 処女奴隷の小さな胸の先端、震えて固くなった乳首をつまんで、クイクイと引っ張る。少し捻ると「ぁうっ……」と喘ぎとも痛みともとれない声がこぼれた。

「さっきさんざんしたんだ、平気だろ」
「……イルゼ、ごめんね」
「だ、だいじょうぶ……ぅ、だいじょうぶ……」

 鼻を啜って大丈夫もないものだが、ミリアも覚悟を決めるしかない。清潔な布を巻きなおしたホウキを構えて、優しく、静かに、妹の中へと進ませる。

「うっ……ぐっ……」
「力を抜いて、ゆっくり、息をして」
「ぷくく、何の授業だよ」
「……」

 イルゼが素直に受け入れられるように、胸を揉んでいた手のひらのうち一方を下方に向かわせる。するりと腹をすべりおりて、ホウキが進むその少し上、クリトリスを指の腹で優しくなでる。

「ふっ、ぅあ……あッ……」
「きもちいいか? 素直に喘いで、ちゃんと気持ちよければ、全然痛くないんだよ。なあ?」
「……力を、抜いて」

 ホウキの柄はみるみる小さな膣に呑み込まれていく。だが、ほどなくして、何かに抵抗されるようにその動きが止まった。

「破れ」

 くにくにとクリトリスを転がしながら、何を言われるより先に命令する。身悶えながらかすかに喘いでいたイルゼも、その意味に気づいたようだった。

「うっ、あぁ……はぁっ、おねえちゃん、おねえちゃん……」

 手のひらを下腹部にあてる。痩せたカラダの奥に、かすかにディルドの感触がある。目で指図すると、ミリアは強くまぶたを閉じた。

「ごめんね」

 ――ズグッ……!

 おそらくは錯覚だ。だが、掌ごしに薄い障壁が破られたのを確かに感じた。処女を失った奴隷は、小さな背中を丸めて、痛みに耐えるように握った拳を震わせる。驚くことに、悲鳴はあげなかった。

「だいじょぶだよ、おねえちゃん……」

 涙をぼろぼろとこぼしながら、へにゃへにゃの笑顔を浮かべる。
 うわあ、感動~。

「ほれっ」
「いぎゃあっ!」

 ふくらみはじめたクリトリスを思いきりひねりつぶすと、健気な少女は腰を跳ね上げて悲鳴をあげた。ナカでディルドが変なところにあたったのか、直後にまた呻いて身悶える。ばーか。

「ギルバート様!」
「うーん、やっぱりその名前で呼ばれるのしっくりくるわ。ほらミリア、ピストンピストン」

 刺激を与えすぎた淫豆を、やさしく撫でまわす。突然の衝撃に荒い息をこぼすイルゼは、いやいやをするように首を振った。もちろん止めるわけがない。躊躇するミリアを睨みつけると、かぶりを振って手を動かした。

 ぬずっ……

 血を吸ったディルドがさらに奥へと進む。なるべく痛みが少ない姿勢を自然と取っているのか、自ら腰をさしだすようにして、イルゼは上体をこちらに預けてきた。力を抜けという指導に従おうとしているのかもしれない。

「主によりかかるなんて、悪いメイドだな?」
「はっ、はぁ……うっ、あぁうっ……んあ……っ」

 右の指先でノックするようにクリトリスをつつき、左の手のひらで下腹部を押しこむ。圧迫された膣壁ごしに、ディルドの確かな固さを感じた。
 血と蜜の混じりあうヌルヌルとした淫液を指先に絡めて、敏感すぎる淫芽をこね回す。イルゼのカラダは素直に喘いで、痙攣じみた震えを繰り返した。

「うっ、ふぁぅ、はぁああ……っ! あ、あぁっ……」
「おお……奥か?」

 顔をあげると、ミリアは沈痛な面持ちでうなずいた。まだ柄は余っていたが、小柄なイルゼでは実際こんなものだろう。腹をぐいぐいと押し込むと、そのたびに全身が敏感に震える。

「なあ、イルゼ。気持ちいいか? ん?」
「ふっ、ふぅっ、はっ……うっ、んぎっ……」
「ほらミリア、焦らすなよ。淫乱なんだから、抜いて入れてしないとかわいそうだろ」

 かすかに唇を噛んで、ミリアは小さくかぶりを振った。せいいっぱいの抵抗がそれか。

 ずるずるとディルドが抜けていく。湿った布は薄赤に染まって、確かに少女を貫いたことを証明していた。完全に抜け切る前に、奥へとまた侵攻する――一度目ほどの苦痛はないようで、イルゼは呻きながらも呼吸を整えようとしている。

「気持ちよくなーれ、気持ちよくなーれ」

 淫芽をこね回しながら腹をさすって、軽く頬に口づけする。ゆっくりとした挿送が五回ほど繰り返されるころ、淫乱奴隷の声に少しずつ甘いものが混じりはじめた。

 浮かせた腰が震えだして、呼吸のリズムが早くなる。抜き差しに合わせてカクカクと腰を使うありさまだ。ミリアもこれには困惑しているようだった。妹が自分以上の淫乱でビビってやがる。

「ほらほら、気持ちよくなってきたか? 声に出したほうが痛くないぞ」
「あっ、んぅ、はっ、はぁ……うっ、ううんっ……」

 想像以上の反応につられているのか、少しずつ挿入のリズムが早くなっている。気づけば、抜き挿しのたびにジュポジュポと水音が響きはじめていた。ふたり分の尿を吸ったシーツに、新しく愛液の染みが広がっていく。

「はっ、あはあっ、んっ、んんっ、うああっ……」

 多少強くクリトリスをこすっても、もう痛がらなくなってきた。喘ぎと水音。今日何度も効いた合奏が繰り返される。既に充満していた甘い空気がさらに濃くなって、腹の奥が勝手に喘ぎだす。見れば、ミリアもとろんとまなじりを下げて、夢中になって手を動かしている。

 マジの淫乱姉妹。こいつら大家族らしいけど、近親相姦とかしてねえよな。

「イルゼ……」
「おっ、あっ、んああっ、おねえちゃん……っ、ンっ、ふぁあっ、あっ」
「ん……ッ」
「ウん……」

 そのまま、とうとうキスをはじめやがった。くちゅくちゅと舌を交わらせて、手と腰を振りたくる。もはや遠慮も何もない。攪拌された淫蜜が泡だってあふれていく。姉奴隷も空いた手で自らの股間をいじりはじめた。

「んちゅっ、んっ、んはっ、ああっ、んああっはああっ!」

 こっちも責めを激しくする。コシュコシュと淫乱なお豆をこすりあげ、乳首をこねてつまみあげると、面白いように反応して腰が踊る。アンジェラのカラダもこの空気にあっという間に昂って、ミリアにつけられた淫火がまたも燃えはじめる。何もしていないのに濡れだすありさまだ。

 発情空間の濃度はますますあがっていく。喘ぎが高く、大きく、激しくなる。世界が塗りつぶされる。オレの腰まで勝手に動いて、イルゼの小さな尻にぐりぐりと押しつけてしまう。

「イルゼ、イルゼ……んっ、はぁっ、んんっ」
「おねえちゃん……んっ、んぁああっ、はっ、あぁあっ、あああっ」

 ガクガクと腰が震えている。往復するディルドの血痕が愛液に洗い流されて、どんどん薄まっていくのがわかる。密着した肌と肌を快感が伝播して、三人分の悦楽がひとつになって駆け巡る。背後から押しつけた乳首で刺激を貪り、手のひらで少女奴隷の性感を漁る。姉が唇を吸いながらディルドを挿し、妹は舌を伸ばして腰をふる。まるで快楽を求めるひとつの獣のようだった。

「あっ、あぁああっ、んっ、あっ、あぁああっ!」

 声が高まる。空気が揺らぐ。淫熱が沸騰する。絡まりあうみっつの快楽が、ついさっきまで処女だった少女の絶頂へと疾走する。

「あっあああっ、おねっ、おねえちゃ、あっ、あっ、んぁあっ、あああぁっ!」
「イルゼ、んっ、イって、イっておわりに……っ!」

 ぐじゅりっ――

 狙いすましたように、つきこまれたディルドがひねり上げられた。それは膣の奥、少し上側をやさしくも鋭く刺激する。ヒュッと呼吸が止まる音がした。目の前で、うなじの細い毛がわななくのを確かに見た。

「あっ……ッ、ンぁああぁああああっ――――――ッ!!」

 全身をエビのようにのけ反らせて、イルゼは絶叫した。透明なしぶきがバシャバシャと飛び散り、即席ディルドが抜け落ちる。断続的に噴き出す蜜潮がミリアの全身を汚して、世界の淫度をあげていく。
 ビクビクと痙攣する姿を見て、ミリアが声をこらえるように身を丸めた。「ふぅっ……」とかすかに吐息をもらして肩を震わせる。

「あっ、ぁあ……あー……」

 魂が抜けたように脱力して、イルゼがへたりこむ。その身を受け止めて、オレはかすかに呻いた。重い。どうにか脇にのけると、あわれな非処女奴隷はそのまま気を失ったようだった。

 生きてるよな? 生きてるな。

「よっと……はは、盛大にイったな。ほんとに処女だったのか?」
「はあ……はぁ……」

 息が荒いのはミリアも同じだ。震える手でディルドを持って、今更のように涙をこぼしている。かすかに赤く染まった凌辱具を見て、現実を思い出したのだろう。

「それじゃあ、ミリア、最後だ」
「はっ?」

 これ以上何をするのかとミリアが目を見開く。いや、これで終わりさ。本当に満足した。ただ、これだけはヤっとかないとな。

「アンジェラを犯せ」

 脚を大きく広げ、既に濡れそぼった花弁を開く。さんざん弄ばれたアンジェラだが、まだその奥は未踏のままだ。

「イルゼにしたように、オレにもしてくれよ。こいつの処女を破っておわりだ」
「……うそでしょ?」

 ああ、この顔だ。

 信じられないという顔。絶望の表情。さっきまで、ここがこの世の終わりだと思ってただろ? 地獄ってのは底なしなんだよ。知らなかったのか?

「それじゃ、意味がない……何のために今まで、命令を聞いたと思ってるの!」
「気持ちよくなりたかったからだろ」
「違、う……!」

 声が揺らいでる。あれだけ泣いて、まだ涙が出ることが驚きだ。

「何度も言わせるなよ。わかってただろ、最初から。途中がどうなろうと結末はひとつだ。いいんだぜ、オレは窓から飛び降りても。いや、もっといい方法もあるな。そのへんの男に片っ端から犯されたってアリだ」
「あなたは……どうして……」
「どうもこうもあるかよ。オレにはもう何もない。こいつを貶めること以外にはなんにもな。オレを憐れんで見下してたこいつを」

 ずっとアンジェラのそばで、オレとアンジェラを見てきたメイドは、かすかに首を振った。わかるぜ。それは違うっていうんだろ? アンジェラ様は本当にあなたを心配していましたよ? 見下してなんていませんよ? 仲良くしたがってましたよ? 愛していましたよ?

 うるせえよ、クソが。

「出来損ないの兄貴で悪かったな。そんなに愛されなきゃいけないほど弱くてすいませんね。ほれ、早くしろよ。せめてお前に破らせてやるの、慈悲なんだからな」

 何を言っても無駄だと思ったのだろう。ミリアはうつむいて、唇を噛んで、それから血に濡れたディルドをアンジェラの雌穴にあてた。

「……あなたを、許しません」
「関係ないね」

 ずぶり、とイルゼの処女血を吸ったディルドが呑み込まれていく。驚くほどなめらかに、抵抗らしい抵抗もなく、どろどろにとろけてぐちゃぐちゃにゆだったアンジェラの膣は、初めての異物を受け入れた。ちくりとした痛みがあった気もするが、誤差みたいなもんだ。

「んっ、ふふ……どうだ、お嬢様が立派な女になった感想は? この日を楽しみにしてたんだろう?」
「……う、うう……」

 あとからあとから涙が出る。ディルドを持った手が震えて、じわりと快楽が滲みだす。さっきオレだけイってないからな。

「ほら、動かしてミリア。一緒にイきましょう? わたくし、貴女の手で大人になれて、本当にうれしいのよ?」
「うぐっ……うううう……うわあああっ……」

 泣きわめいて、ミリアはディルドをひねり抜いた。ぞくりと快感が弾けて、一瞬でまた体温が上昇する。繰り返し絶頂した疲労が全身をにぶく覆っていたが、腹の奥まで到達した淫棒の力強さは、それをしてあまりまる刺激をくれる。

「うっ、ふっ、ああっ……ミリア……」

 手を広げる。舌を伸ばす。泣きながらキスに応じたミリアと、唾液と体温を交換する。快楽がまじりあって揺らいでいく。
 ミリアの丁寧すぎる愛撫でともされた媚熱はまだつづいている。ディルドの刺激で一斉に燃え上がり、神経が目覚めて震える。突き、曲がり、ひねって、えぐる、リズミカルな淫撫にすでにとろけ切った腰が崩れていく。

「あっ、あぁああっ、だめだなっ、すぐ、いっちゃ……っ!」

 さっきイルゼにしたように、ぐりゅ、とディルドが最奥を突きあげた。膣から子宮を貫き、心臓を通って脳に達する淫衝撃。膣が勝手に収縮し、脳裏にディルドの武骨な形を刻み付ける。子宮がキュンキュンと鳴いて、今日最後の絶頂津波が全身を襲った。

「あ、んっ、んんああぁっ~~~……!」

 バチバチと視界が瞬いて、全身が波うつように震える。甘い余韻を残して波が頭上から抜けていき、長い淫戯のおわりを告げた。

 力がもう、全く入らない。よりかかるようにミリアに抱き着いて、オレは長く細い息を吐いた。耳元で泣き声が聞こえる。ミリア自身も脱力して、ディルドから手のひらが滑り落ちた。

「ふふ……」

 股間に刺さったままではさすがにまずい。どうにかディルドに手を添えて、ゆっくりと抜く。どこまでも淫乱な媚肉が快楽を逃すまいとまとわりついてきたが、むりやりに引きはがした。

 ぬぽっ……

 布は真っ赤に染まっていた。ふたり分の処女血と愛液を吸ったディルドを眺めて、それからそっとミリアの肩を押す。ふらふらと離れたメイドに、俺は血まみれのディルドを差し出した。

「味わえよ。大事な妹と、大事なお嬢様の、一生に一度の証だぜ」
「……あなたは、どこまで……」

 ぼろぼろの顔で、ミリアはかすかに笑った。震える手でディルドを受け取り、巻き付いた布にそっと舌を這わす。赤い痕が頬に残って、まるでピエロの口元のように笑顔を彩った。

「お前がメイドでよかったよ。これからもアンジェラをよろしくな」
「……早く、消えてよ……」

 ディルドを握りしめて、うつむいたメイドがかすれた怨嗟をもらす。そうだな。オレも疲れた。
 大の字になってベッドに横たわる。疲労感に身を任せて、ゆっくりと意識を手放した。

 さあ、愛しのアンジェラ――絶望の時間だぜ。


◇◇


「……え?」

 目が覚めた。
 全身が痛くて、だるくて、痺れているように感覚が曖昧だ。頭が痛い。ひどいにおいがする。泣きつかれたあとのように、目がゴロゴロと痛む。喉がカラカラに乾いていて、雑音のようなものが耳元で鳴っている。

 満身創痍のひどい状態だった。何がなんだかわからない。

「え?」

 自分の部屋の、ベッドの上だ。だが、シーツはしわくちゃで、得体の知れない染みがいくつもできていた。ゆっくりとカラダを起こす。頭に手を添えて、耳をふさぐ。そっと顔をあげると、

「うっ、うう、ううう……」

 ふたりの女性が、抱き合って泣いていた。どちらも裸だ。息を吸うと、かいだことのないほど強烈なにおいが鼻孔を刺して、脳がビリビリと痺れた。

「ミリア……イルゼ……」

 ああ、そうだ。あれはイルゼだ。今日からお屋敷に来た、新しい家族だ。ミリアの妹で、きっと仲良くなれると……

「あ」

 ……仲良くなれると思って……裸にして、泣き叫ぶ姿を愉しんで、

「あ、ああ、あ」

 笑って、いたぶって、貶めて、苦しめて、

「あああ、あああああっ!」

 そして、

「お嬢様……? お嬢様! 大丈夫です、お嬢様!」
「わっ、わたくし、ああ、ミリアわたくし、なんて、なんてことを……」
「違うんです、お嬢様、あなたじゃない! あなたじゃないんです!」

 頭が痛い。呼吸が苦しい。胸が重い。吐き気がする。

「わ、わたくしが、ふたりを、どうして、あ、ああ、どうしてあんな」
「違う! あなたじゃない!」
「じゃあ誰なの!」

 指の感触、手の動き、痛みと快感、そして心を満たした暗い愉悦、その全てを覚えている。いやになるほど明瞭に。どうしようもないほど生々しく。

「お、おかしくなって、わたくし、おかしくなってしまった……ど、どうして、ごめんなさい、ごめんなさいミリア……い、イルゼ、わたくし、本当にごめんなさい……」

 すがるように伸ばした手に、イルゼが怯えてあとずさった。身を守るように自身の肩を出して、震えながらうずくまる。

「も……もう、ゆるしてください……」

 その言葉は、優しく抱きとめてくれたミリアをすり抜け、言い聞かせるような言葉を砕いて、アンジェラの脳を突き刺し、心を貫いた。

 とりかえしのつかないことを。

「ごめん、なさい……」
「アンジェラ様、違う、違うんです、あなたじゃない……!」

 世界で一番大切な家族が、強く抱きしめてくれる。ぬくもりが全身の痛みをやわらげるような気がしたが、何かを主張するように、下腹部の痛みだけがなくならない。

「……あ、は」

 赤く染まった股間を見て、視界がぐらりと揺れた。悲鳴が聞こえる。泣き声が聞こえる。何もかもを壊してしまった。自分自身の手で、粉々にしてしまった。
 
 もう何もない。
 家族のために自分を捧げることすら。

 
 重い。
 全身が重い。心が重い。魂が重い。世界が重い。
 
 深く、
 遠く、
 暗く、
 重く。

 何もかもが、遠ざかっていく。
 そうしてアンジェラは、泥の中へと沈んでいった。


#ex:泥の中・4
 深く、遠く、暗く、重く、泥のような闇の中に、沈んでいる。

 あの日からずっと、フィンダース家は沈みっぱなしだ。当主は原因不明の病に倒れ、母親は完全に気が狂ってしまった。残されたひとり娘はメイドとともにパーティに出てはどこからともなく資金を調達してくるが、悪い噂が絶えない。

「……今日も行かれるのですか」
「ああ、今日は上玉だぜ。おい、イルゼ。母様の相手を頼むよ」
「はい……」

 慣れたもので、水とディルドを用意したイルゼが全裸で母親の部屋に向かう。ミリアのケツを叩いて、オレは笑った。

「まあまあ、そう悲観するなよ。ひょっとしたら、いつかアンジェラが帰ってくるかもしれないだろ? オレにだって、なんでこうなってんだかよくわかんないんだから」
「……これで満足ですか、ギルバート様」
「あら、今はもうわたくしがアンジェラよ? しっかりしてね、ミリア。わたくしの大切な家族」

 背伸びをして口づける。顔をしかめて、ミリアは口元を拭った。まだまだベッドの外では素直じゃないね。

「旦那様にご挨拶を」
「いらないだろ。あんな死にぞこない」
「……」

 目を伏せて唇を噛む。悲劇のヒロインぶるねえ。

「なあミリア。お前だってわかってるんだろ? お前自身が傷つくことをおそれないなら、方法はいくらでもあったってさ」
「……あなたは……」
「食事に薬を混ぜてるのは誰だ? 妹を毎晩嬲ってるのは? アンジェラのカラダを犯してるのは? 全部お前だ、お前なんだよ」

 いやなら死ねばいい。アンジェラを致命的に傷つける前に、お前自身が死ねばよかったんだ。誰もかれも守りたいなんて欲を出すから、何もかも失うんだよ。

「結局、お前も愉しんでるだよ。じゃなかったら、いつまでもこんなことに付き合えるもんか」
「……ちがう、違う……私は……」

 地味なメイド服を脱ぎ捨てて、豪華なドレスで着飾って、貴族の娘をたぶらかす。なあ、楽しいんだよな?

「まあいいさ。そうやって自分をごまかしてりゃいい。そういう自己弁護、泥みたいなもんだけど――どうせ、そう長い時間じゃないだろうからな」

 こんな方法、いつまでもつづくわけがない。早晩フィンダース家は滅びるだろう。どう考えてもろくでもない未来しか待ってない。

 だが、オレには関係ない。泥みたいな世界で、ひたすらセックスを愉しみゃいいのさ。どうせオレには、最初から未来なんてないからな。

「どうミリア、きれい?」

 あつらえたドレスは一級品。アンジェラのキレイなブロンドがキラキラと輝いて、ドレスに彩りを添える。目を細めて、何かをこらえるように、ミリアは「お似合いです」と頷いた。

 泣くなよミリア。

 可憐な花は、泥に咲いても美しい。
 きっと散り際も美しいだろう。それを見ることができないのは、まあ、心残りかもな?

 従者をともなって屋敷を出る。夜の世界にともる街灯は地獄への道しるべのようで、深い夜空は、

 ……やはり泥のようだった。

[ 2020/12/15 18:00 ] 憑依モノ祭り(憑依ラヴァーver.) | TB(-) | CM(0)
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