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【憑依モノ祭り7日目】プレミアムな黄昏

作者: 夏目彩香/ナツメアヤカ
作者コメント:憑依されても憑依された相手のことを思いやること、そんな優しさを表現できれば幸いです!



新型コロナが猛威を振って緊急事態宣言が解除されてから一ヶ月が過ぎた六月最後の金曜日のこと。日本でプレミアムフライデーなる政策ができたものの、あまり普及しているとは思えないが、うちの会社にもプレミアムフライデーが導入されることになった。
そのことをどこから聞いたのかはわからないが、大学時代に研究室の一つ年上の先輩からタイミングよく連絡が入り、夕方の四時に会う約束を決めた。そのため時計の針が三時半を過ぎた頃にゆっくりと準備をして会社を出るのだった。
約束した先輩との待ち合わせ場所は、最近になってできたばかりのとあるカフェ。同じ時間に会社を出ても会社から近くなので先に着くのは当然だった。カフェに入ると思ったよりも空席が目立つのは、この辺りに出勤している人たちが減っていることもある程度影響しているのだろう。在宅勤務も進んでいることもあって、いくら新店舗とは言っても混んでいなかった。感染防止対策をしっかりと行ってもなかなか厳しい状況が伝わって来た。とりあえず待ち合わせの時間まで少し時間があるので、先にアイスコーヒーを注文して入口近くの席で、それを飲みながら先輩を待つことにした。
それから、しばらく経っても先輩らしき人物が店内に入って来る様子は一向になかった。さっきから来店して来るのは女性客ばかり、店内にいる数少ない男性客と言えば定年して悠々自適の生活を送っているらしい初老の男性くらい、僕と似たような年格好をした男性の姿は見当たらなかった。そもそも約束の時間から二十分は過ぎているというのに、一通のメッセージも送って来ないのもおかしなことだった。何か会社でトラブルでもあったのだろうか、そんな風に考えるのが自然なことだった。
僕の方もしばらく連絡をしていなかったので、スマホで軽くメッセージを入れてみたが、するとすぐに『あっ、ゴメン。すっかり連絡するの忘れてた。ちょっと遅れるけど、知り合いが到着しているはずだから先に合流してくれないか』という返事が返って来た。
そこで、先輩が言う知り合いらしき人物がいないものか、カフェの中をよく見回してみた。それらしく思える人物、先輩の年齢から知り合いの幅を考えると少し奥まった席に座っている四人の女性くらいだろう。そ う思った矢先、先輩から次のメッセージが届いた。『知り合いとは合流できていないよね。お前が店に入ってから到着したって言うから、声をかけて聞いてみるといいよ』という返事が返ってきていた。
先輩のメッセージに返信として四人の女性が見えるけどその中にいるかと質問をしてみると『きっとその中にいると思うよ』とだけすぐに返って来た。僕は仕方がないので四人の姿をとりあえずじっくりと観察することにした。
一人目は窓側のカウンター席に座っている二十代前半に見える若い女性、涼しそうに見える透けてみる小綺麗な黄色のワンピースに身を包み、足元のサンダルがその涼しげな雰囲気を一層引き立てていた。ちなみにスタイルからすると僕の好みど真ん中だったりする。
二人目は壁側のソファ席に座っている某有名私立高の制服姿をした女子高生で、この辺りでは誰もが知る制服で実は僕の妹の出身校でもあった。教科書やノートを広げながらスマホをしきりにいじって、何かに取り組んでいた。僕が高校生なら間違いなく彼女にしたい女の子が座っていた。
そして、三人目と四人目はテーブル席に座る仕事帰りと思われる三十代過ぎの二人組、一人は壁側に座る女性は紺のスーツに身を包んでおり、Aラインのタイトスカート、パンプスまで落ち着いた雰囲気で、面倒見のいいお姉さんと言った感じだ。その向かいの席に座わるもう一人はグレーのワンピースに薄手の白いカーディガンを羽織って、白いスニーカーという出で立ち、四人の中で唯一僕の好みでは無かった。この二人はお互いに干渉することなくスマホに夢中でそれぞれの時間に浸っている。
四人の共通点と言えば先輩よりも若い女性ということぐらい、この女性たちの中に先輩の知り合いがいるのだが、そんなことは知るよしも無いし、だからと言って一人ひとりに話かけてみる、そんな勇気は僕は持っていなかった。
そうこうしている内にまたスマホが揺れていた。確認するとメッセージは無く、ただ一枚の写真が送られて来た。細長い指がしなやかに伸びる右手だけが映し出されており、爪には何も描かれていない様子が写し出されていた。二人組の女性は爪にマニキュアがキレイに塗られていたので、その写真からするとこの二人ではないことがわかった。
残る二人は若い女性と女子高生。二人の右手に注目するがどちらも同じように見える。どちらの手なのか判断するのは難しかった。二人に声をかけてみようかと諦めかけたところ、写真をよく見ているうちにとあることに気づいた。その特徴をすぐに先輩のスマホに向けてメッセージで送ってみるた。するとすぐにおめでとうを意味するスタンプが届いたので、先輩の知り合いに会いに行くことにした。座っている席から立ち上がり、自分の荷物とグラスを手に取り僕は声をかけた。
「済みません。高桑(たかくわ)先輩の知り合いですよね」
「そうですが、知り合いもなにも高桑先輩って実は私の実の兄なんです。私の方こそお待ちしていました」
「あっ、そうだったんですね。少しだけ隣の席に座ってもよろしいですか」
「はい、いいですよ」
彼女がそう言うやカウンターの隣にグラスを置き席に着いた。僕のことを待っていてくれたと言うが、僕としては先輩から肩透かしを食らったみたいに思えた。先輩と約束をしたのに妹と会わせるんだろう。しかし、彼女の方から漂って来るさわやかなフローラルの香りと、彼女の姿を見ると先輩の妹でなければすぐにでも仲良くなりたい、そう思ってしまった。彼女はスマホで何かメッセージを送ってから改めて僕に挨拶を始めた。
「はじめまして、高桑七海(ななみ)です。あなたの大学時代の先輩、高桑拓海(たくみ)の妹なんです。兄から色々と話は聞いたことがあるので、紹介して欲しいとずっと昔から頼んでいたんですけど、大学を卒業するまではダメだってずっと言われていて、今になってようやく会う機会をもらったんです。だから、ゴメンなさい。お兄ちゃんはここには来ません。プレミアムな黄昏を二人きりで過ごしたいって言ったら、なんとかするからって言ってくれたんです」
先輩の面影がチラリと見えることもあって、先輩の妹ということにはどうやら間違い無かった。それにしても先輩の妹がこんなにも僕の理想に近いとは思ってもいなかった。大学時代には妹がいると聞いたことがあるだけで、実際に会ったことは無く、しかも僕にずっと会いたがっていたとは意外なことだった。もちろんこんな風にして出会うことになるとは思ってもいなかった。
「申し遅れました。飯沼太一(いいぬまたいち)です。高桑先輩の一つ下で今は食品メーカーの商品企画室で働いています。先輩に妹がいるとは聞いたことはあったんですが、ずっと会いたいと思ってくれていたなんて、ありがとうございます。こんな風に会えるとは思ってもいませんでした。これからよろしくお願いします」
僕が挨拶する姿を見て彼女は、なんだか生き生きとした表情に変わっていた。
「お兄ちゃんが事あるごとに飯沼さんの話をしてくれて、写真も良く見せてくれたんです。だから、こうやって会うのも全く違和感を感じないって言うか、初めて会った気がしません。実は今はとってもドキドキして何を話したらいいのかわからないんです。とりあえず、私たちって同い年なんだし私のことは七海と気楽に呼んでくれればいいですよ」
「えっ、同い年?僕よりもずっと年下で二十代前半かと思ってた」
「そうなの?ありがとうございます。正しくは誕生日は私の方が一ヶ月早いので学年は一つ上だけど、三月と四月じゃほとんど変わんないわよね。あの、今からちょっと化粧室行って来ますね。ゆっくり待っててくれるかな」
すると彼女は小さなポーチを手にして立ち上がり、化粧室へと消えていった。
一人残された僕は彼女が飲んでいたグラスに視線を移した。世間ではいつでもどこでもマスクをするのが当たり前になっているせいなのか、ストローの先に口紅がつくことも無くキレイなままだった。スマホが震えたかと思い目をやると先輩からのメッセージが届いていた。通知に目をやると『妹の七海に会ったよな。じゃあ、プレミアムな黄昏をよろしく頼むよ』と書かれていた。実家暮らしの僕は夜遅く帰るのはご法度なので、夕方の黄昏時しか時間がないと言うことはすでに彼女に伝わっているらしかった。
僕はカウンター席から周りを眺めると、さっきまで座っていた会社員風の女性たちはいなくなっており、どことなく七海と似た雰囲気の女子高生は相変わらず勉強に夢中になっていた。今時の勉強の好きな子はカフェで勉強するらしい、時代はどんどん移り変わっていくようだ。彼女の右手にはしっかりとシャープを握っているので、さっきの写真がリアルタイムに写した写真ということからしても、右手に何も持っていない女性こそが先輩の言う知り合いだったのだ。
そうこうしているうちに七海が化粧室から戻って来た。スマホの時計を確認すると四時四十分を過ぎたところだった。顔にはさっきまでの紙製の使い捨てマスクではなくキレイなグレーの布マスクを付け、さっきよりも目元が強調されたメイクを施していた。そんな目元を見るだけで僕の心は緊張感が増すのだった。
「お待たせ。ねぇ、飯沼さん、いいえ、太一さんでいいかしら?」
さっきまでとは違って七海はすっかり落ち着いた雰囲気を取り戻していた。緊張感から吃るような感じも消え去り、まるで別人のように思えるほど女子力がアップした七海の虜になっていた。
「あっ、飯沼さんでも、太一さんでも、好きに呼んでもらえばいいです」
「じゃあ、太一さんでいいよね。少し早いかも知れないけど食事に行きませんか?私の奢りと言いたいところなんだけど、お兄ちゃんが私にくれた軍資金があるから、何だって好きなものを食べに行って良いって言われたんです」
すると彼女は自分のバッグから長財布を取り出して、数枚のお札と一緒に添えられたメッセージカードを見せてくれた。そのメッセージカードには『七海へ これで一緒に美味しいものでも食べてくるといいよ。何に使うのかは自由だから、デートの足しにしてくれたらいいよ。じゃ、プレミアムな黄昏を。 拓海 』確かに七海宛に書かれたメッセージカードにあったのは先輩の文字だった。デートに使うには余計な気もするが、僕らに対するプレゼントの意味合いもあるらしい、七海が財布を元に戻すと僕らはカフェを出て一緒に食事をすることにしたのだ。



カフェを出るとこの周辺で食事のできる店を探し始めた。これから限られた時間しか残されていないため、最大で三時間ぐらいしか時間は残されていなかった。ゆっくりと食事をするとなれば、あっと言う間に時間がきてしまうだろう。
結局、周辺を十分ほど探索して見つけたのは少し高めの定食屋さんだった。落ち着いて食事ができて、調理を待つ時間にも話をして過ごせるし、ドリンクバーがあるので少し長居もできるので、僕らにはとってもってこいの場所だった。先輩からもらったお金はどう考えても余りそうだから、何でも頼めるそんな感じだ。
待つこともなく案内された席は大きなテーブル席で、カップルシートになっていているが、横並びで座っても向かい合わないように配慮されている。新型コロナ対策のためにこの形にレイアウトが変更されたようで、テーブルの先に窓が広がって、夕暮れの空が見える気持ちのいい席だ。
渡されたメニューの中から注文を行うと、隣の席とアクリル板で大きな間仕切りをしてくれたので、二人きりの空間が出来上がった。こんなご時世で外食産業もなかなか大変だが、僕らにとってはそれがプラスに働いていた。席につくとすぐに注文を行って二人きりになった。アクリル板の仕切りはあるものの両隣は誰もおらず、まるで貸切状態だった。ここで僕は七海に積極的に話かけることに
「今日はありがとうございます。七海が僕のことをどのくらい知っているのか、まずは確認してもいいですか?」
七海は手に持っていたスマホをバッグの中に入れて、荷物入れの中にバッグを置いた。
「太一さん、いいですよ。兄からかなりのことは聞かされているので、兄が知っていることならたぶん知ってます。洗脳されてしまうかと思うほど聞かされたので、ずっと前から会いたいって思っていたんです」
七海の表情には溢れんばかりの余裕が見受けられる。先輩がどれだけ僕のことを話しているのか、それを探りつつ七海のことを知ろうとする僕の作戦でもあった。
「じゃあ、最初は大学時代に僕と先輩が通っていた研究室の名前は何でしょうか?」
「えっと、そんなの簡単で。イッシーこと、石橋教授の研究室で名前は生命バイオ工学研究室」
「わっ、いきなり正解!それに僕らが石橋先生のことをイッシーって呼んでたことまで知ってるなんてね」
「それもお兄ちゃんの口から散々聞いてたからまだまだ序の口なのよ。続いて質問は?」
「それでは、さっき出てきたイッシーこと石橋教授ですが、その石橋教授から僕は何と呼ばれていたでしょうか?」
「初めて出席を取った時に飯沼太一というところを区切りを間違って『いいぬまた・はじめ』と言い始めたので、研究室に入ってからは『はじめ』と呼ばれてました」
「またまた正解、そんなことも知ってるなんて、なかなかやりますね」
「まぁね。だって、お兄ちゃんも太一さんのことを『はじめ』って呼んでたんです。とにかくお兄ちゃんが何でも話してくれたから、自然と耳に入れているうちに覚えてるみたい」
「それでは、ここで七海さんに質問してもいいですか?」
「えっ、私に質問って、もちろんいいわよ」
僕が言った矢先、七海がほんのわずか動揺しているのを僕は見逃さなかった。先輩のことを聞くときとはまるで正反対だからだ。
「じゃあ、質問します。七海さんにとって生涯のパートナーに求めることって何でしょうか?」
隣同士で座っていることもあって、七海の顔を正面から見ることはできないが、凛とした横顔からはわずかに冷や汗が流れているように見えた。
「会ったばかりだって言うのに、いきなりどうしてそんな意地悪な質問をするんですか?生涯のパートナーについていきなり聞くなんて、ちょっとだけ時間をください」
言葉が止まったかと思うと、そんなことを考えたこともないとばかりに七海は少し考え込んでしまったようだ。
「わかりました。無理に答えなくてもいいんです」
そう言うと、七海は何か閃いたかのような表情に突然切り替わる。
「私にとって、生涯をともにするパートナーに望むことは、私の思っていることを一緒に分かちあって、その日にあったことを何気なく話せる人かな。だから、お兄ちゃんの話で聞くあなたのことが私の理想の人に思えたから、今になって会わせてくれるようになったと思うわ。ずっとうるさく言ってきたから、大学を卒業したともあって約束した通りに会わせてやるって言ってくれたんです。ゆっくりとお互いのことを分かり合えるようにと思って、この機会が私にとってはとっても嬉しいんです」
七海が生き生きとした口調で語り始めた。マスクをしながら話をするのも息苦しくなってきたので、店で用意してくれたマスクケースに丁寧に入れた。マスクで覆い隠されていた横顔は強烈な印象で僕の目に飛び込んで来た。実はさっきの言葉を聞いて僕の心からドキドキが止まらなくなっていたのだ。
「なんだか無理に言わせちゃたみたいで、済みません。それでも七海の考えが少しでもわかるようになって嬉しいです」
七海の横顔、まるで僕だけの宝物のようだ。先輩と会えると思っていたが、突然目の前に出てきたのは先輩の妹だった。いきなり訪れた状況もすんなりと受け入れ、こうやって自然と二人きりの時間を楽しんでいるが、七海が僕に好意を持っていることを知ったので、僕も七海のことを気にし始めていた。
「じゃあ、気を取り直して次なる質問」
窓ガラスの外は夕暮れ空で空が赤く染められいた。それはまるで僕の心の中にある恥ずかしさを具象化しているように思えた。
「次の質問は何かしら?」
「次は、生命バイオ工学研究室で僕がある失敗をしてメチャクチャ怒られたことがあります。それは一体どんなことだったでしょうか?」
「研究室で実験をしている時に実験機材の操作を誤ってしまい、一から実験をやり直すことになっただけでなく、大事な機材を壊してしまって、修理に出してしまったこと。その実験が遅れてしまってたっぷり叱ってあげたってお兄ちゃんが言ってたわよ」
「先輩って、そんなことまで喋ってったんですか?あの時は僕と先輩以外に誰もいなかったので、秘密にするって約束したんですが、そんなことまで知ってるなんて、僕については深く語る必要なんてないのかも知れませんね」
「お兄ちゃんが話してくれたことだから、それが秘密だとは思ってもいなくて、ゴメンナサイ」
「失礼します。お食事をお持ちしました」
僕らの会話に割り込むように食事が運ばれて来てしまった。テーブルの上にはそれぞれが注文した定食が置かれてしまい、食事中は会話をすることもままならないので、とりあえず食事を摂ることに集中して話を中断するしかなかった。



食事が終わる頃には夕暮れの空はだんだんと暗さを増して、窓ガラスが鏡のようになって僕らの姿が映し出されたので、七海の素顔を初めて見ることができた。窓ガラス越しにお互いの姿を確認すると、僕はドリンクバーからお茶の葉を選んで運んで来て食後の時間を楽しむことにした。テーブルの上にカップを置いて、ようやく七海の顔をゆっくり眺めることができたのだ。お互いのことを分かり合うには短い時間だったのだが、どうやら七海は僕のことをよく知っていることは確かだった。
僕が入れて来たお茶を入れたカップに口をつけてゆっくりと飲んでいる姿がなんとなく愛おしく感じる。初めて会ったばかりなので、今日のところはこれで家に帰ろう、そう思っていたのだが、隣に座っている七海が突然、僕の方をしっかりと向いてこの時初めてお互いの顔をまじかに見るようになったのだ。
「あの、太一さん。今日はこんな風に会うことになったんだけど、本当にスミマセンでした。私のワガママを聞いてくれたお兄ちゃんにお願いして、機会を作ってもらったんですけど、少し迷惑なのはわかっています。でも、私。あなたに会えば私の気持ちがはっきりすると思ってたんです」
「七海さん」
七海がここでいきなり改まった話をし始めたので、どんな言葉が飛び出るのか、ドキドキし始めてきた。
「あっ、私が一方的に話しちゃってゴメンナサイ、私が言いたいのは太一さんのことが、太一さんのことが……」
心臓の高鳴りが最高潮に達していた。
「太一さんのことがやっぱり好きなんです。だから、私と付き合ってくれませんか?お願いします!」
そう言って僕に深々と頭を下げていた。七海から告白されてしまった。先輩の妹ということが引っかかってしまい、どう答えたらいいのか迷ってしまった。今は雰囲気に呑まれて流れに任せてしまおうと考えてしまいそうだった。
「とにかく、頭を上げてください。今は七海のことを先輩の妹だってことしかわかっていないし、彼女が欲しいのは山々だけど、七海の気持ちを受け止めてしまっていいものなのか、考える時間を与えてくれないのはちょっとずるい気がするんです」
「それは、わかってるんです。だから、お願いしてるの。今は私のことを好きだって言うより誰でもいいから彼女にしたいって気持ちでもいいの、私もあなたのことをなんでも知ってるわけじゃないから、まずは付き合って欲しいの」
七海の目には僕の姿がしっかりと映るほど、大きく目を見開いていた。
「確かにそうだよね。じゃあ、僕も一歩踏み出してみてもいいかな」
すると七海の表情が急に明るくなった。
「ありがとう。これからよろしくお願いします」
「僕の方こそ、よろしくお願いします」
二人の関係は先輩の後輩と先輩の妹という関係から一線を越え、カップルとなった瞬間だった。
「じゃあ、私たちがカップルになった記念にこれからお揃いの指輪を作らない?」
「お揃いの指輪?」
「アクセサリーを身につけるのは嫌い?」
「まぁ、そうなんだけど、きちんと付き合うためにも作りに行こう」
もう少しここでゆっくりすることもできたのだが、ドリンクバーで元を取るには時間が無くなってしまうため、すぐにここを出ることにした。会計はもちろん七海が先輩からもらったお金を使って支払った。
定食屋さんを出ると僕らはとあるファッションビルへと向かっていた。先輩から渡されたお金がまだ残っているので、それを使ってカップルになったことの証としてお揃いの指輪を買うことにしたのだ。僕はアクセサリーに興味を持ったことはないので、完全に彼女の願いによるものだった。自分が付き合う人ができたならお揃いの指輪をはめたいというのがずっと夢だったと言う。そんな風に言われたので僕は断るにも断りきれず、ここは七海のセンスに任せるしか無いのだった。
とあるお店に置かれているショーケースに目を止めた七海、彼女の視線の先を追いかけてみると、小さな光り輝く石が載せられたシルバーリングがこっちを見ていた。それはまるでこの指輪に一目惚れをしたかのような具合で、彼女の視線は他に動こうとしていなかった。
「もしかして、あの指輪、気に入ったの?」
僕がそう言うと、彼女は首を縦に動かしゆっくりと頷いた。すぐ下にあるプレートを確認すると、余ったお金で買うには実のところかなりの予算オーバーだった。それでも、もうすぐボーナスも出るから大丈夫と自分の懐に言い聞かせ、予算を超える分は僕が払うことにした。
店員さんに声をかけて二人の指のサイズをしっかりと測り、お揃いの指輪を準備してもらうことになった。そして、店員さんとの他愛のない会話も僕らのラブラブムードを盛り立ててくれた。お互いの指に指輪をはめるとサイズはピッタリだった。店員さんはケースを丁寧に梱包して紙袋に入れて、レジを叩くと先輩からもらったお金を現金で払い、残りの差額は僕のカードで支払いを済ませた。店に置かれている時計を見ると七時二十分を過ぎていた。彼女の乗る電車が七時三十三分、僕のは七時三十五分にやって来ることがわかっていたので、僕らは急いで駅へと向かうことにした。
店を出るとお互いの指にはめたお揃いの指輪がカップルになったことを実感させてくれた。そして、今日のところはここで別れなければならないということを感じる時間にもなっていた。七海と一緒に過ごした時間、初めて出会った感じがしない、この不思議な感覚は一体何なのだろう。そう思いながら駅のホームまでやって来ていた。同じホームに立っているものの、七海と僕は反対方向へと向かうことになるので、このホームで七海と別れるしかなかった。
「今日は本当にありがとう」
「いや、こちらこそありがとう。こんな風にお揃いの指輪を買うことになるなんて夢にも思っていなかったし」
「あっ、そうよね。でもね、私は実際に会ってみて私のことを気に入ってくれたら、こうなることは予測したのよ」
「僕はそもそもプレミアムフライデーに先輩と約束をしたのにね。なんだかんだと七海に出会って自然とカップルになってしまった。まさにそんな感じ」
「お兄ちゃんにしてやられたって感じよね。でも、おかげで私はずっと憧れていた人と付き合うことになったの。なんか感謝しかないよね」
そんなことを言っていると七海の乗る電車がホームに滑り込んでいた。金曜日の夜の時間は他の平日よりも人が少なかった。
「電車、来ちゃったね。じゃあ、今日は本当にありがとう。そして、これからよろしくお願いします」
七海が改めてお礼の挨拶をしてくれた。
「まぁ、いつでも連絡できるんだし、今度時間ができたらまた会えばいいよ。先輩にもよろしく伝えておいてください」
「わかりました」
七海の乗る電車のドアが開き、降車する人と乗車する人が交互に流れた。七海も乗車する人の流れに乗って、ドアの付近に立って僕と面と向かって立っていた。マスク姿なので目元しか見ることはできないのだが、僕にはまるでその表情まではっきりと見えた。
この駅は快速電車の通過待ちをするため、発車するまで数分停車するため電車に乗ってもすぐに発車することは無かった。少しだけ気まずい雰囲気が続くのだが、ドアのすぐ側に立って電車の発車を待つ七海の目が突然大きく開いたように見え、まるで何かを突然思い出したような、そんな感じがした。いや、何かに取り憑かれたのではないかと僕は思った。七海が穏やかな表情に戻ると電車から降りて、ホームに立つ僕の目の前に近づいて来たかと思うと、肩に腕を回すようにしていきなり抱きついて来た。
「忘れ物よ」
そう言って七海は僕に自分の顔を一気に近づけてマスク越しのままキスをしたのだ。七海の圧倒的な勢いに僕は身を委ねるしかなく、マスク越しのキスをしながらお互いの荒くなった息遣いをしっかりと記憶した。十秒、二十秒、いや恥ずかしげもなく三十秒ほど続いた時間を切り裂いは発車ベルだった。案内放送がかかる中、七海が再び電車に乗り込むと電車のドアはすぐに閉められた。二人の距離が遠ざかる中、ホームの上で僕はしばらく呆然と立ち尽くし、乗るはずの電車を乗り過ごしてしまった。



駅のホームでの出来事があまりにも衝撃的だったこともあって、ホームの上で意識が戻って来ると自宅に帰るまでスマホの電源を切って誰とも連絡のつかない状況を作りだしてしまった。一本遅れたもの自宅に到着したのは八時半よりも前だった。そして、家に到着するまで七海との別れ際のシーンが何度も何度も頭の中で繰り返し走馬灯のように流れていた。
実家暮らしの僕は未だに夜遅く帰るのも憚らないでいた。会社で残業しなければならない時はしょうがないと言ってくれるが、夜遅く帰るためには実家を飛び出して一人暮らしするしかないのだ。
いつものようにリビングを通り自分の部屋に戻ると、ベッドの上にダイビングした。そして、マスクを外してゴミ箱に捨てるのだが、このマスクは捨てることができなかった。七海とマスク越しの間接キスをした大切な思い出の品と変わったためだ。いつもと違って大切なものを扱うのように丁寧に外して、新しいクリアケースを取り出してそこに折れ目がつかないようにきれいに収納すると、そのクリアケースを手にしながら七海と過ごした時間を思い返していた。
それからようやく心が落ち着いてきたので、電源を切っておいたスマホのボタンを長押しすると起動画面が立ち上がり、たくさんの通知が一斉に届いた。もちろんその通知の中には七海からのメッセージも含まれているので、アプリを立ち上げて七海からの未読メッセージを読み進めたが、今日は楽しかったとかありきたりの内容が続いていたのだが、その中にあるとある一文を見ると視線が止まった。
『家に着いて落ち着いたら、九時頃からビデオ通話しましょうね』
大きなスタンプも一緒に届いており、七海の僕に対する気持ちが垣間見えて嬉しかった。僕は家に着いたとの内容をメッセージで送ってから、今日の出来事について何気ないメッセージを返したのだが、七海はまだ家に着いたばかりで帰宅後の準備が落ち着くまで九時までは待って欲しいということだった。
待ち時間の間にビデオ通話をするための準備ということで、部屋の中で背景にする構図を探してからその周辺を片付けた。カバンからタブレットを取り出して開き、画面と音声のチェックを入念に行っていたのだ。ワイヤレスイヤホンだとバッテリーが切れるかも知れないので、有線のヘッドホンをヘッドホンジャックに差し込んで準備が整った。
最後にタブレットの充電池がなくならないようにと、充電ケーブルを差し込むとビデオ通話を要求する音が鳴り響き、画面を見るとそこには七海の文字があった。心臓が飛び出てしまいそうなくらいの状態だが、僕は通話のボタンに指を触れてビデオ通話に応答した。タブレットの画面には七海の上半身が登場したのだが、さっきまでとは違ってスッピンなものの、七海のありのままの素顔は僕にとってとても新鮮なものだった。
「画面見えてる?聞こえるかしら?」
「見えてるよ。ちゃんと聞こえてる」
何気ない言葉の一つ一つが初々しいカップルが誕生したことを物語っているようだった。ネットワークの状態によって鮮明に映っているものが、少しボケたりするのだが、そんな状態になっても脳内補正できるほどに僕の脳裏はっきりと彼女の姿が焼き付いてた。
「だいぶ待たせちゃってごめんなさい。シャワー浴びてきたから」
画面をよく見ると薄い水色をしたパジャマ姿の七海の髪はまだ少し濡れている感じがした。
「あっ、だからこんなに時間がかかったんだね」
家に帰ったというメッセージからビデオ通話に至るまで実際には三十分ほど待ったのだが、その理由がシャワーを浴びていたことにあるので、確かに仕方がないことだった。
「ビデオ通話なんてあんまりしたこと無かったんだけど、やっぱり新型コロナで自粛するようになってからは、ビデオ通話を使うことも多くなって、それでようやく慣れてきたから、こうやって太一さんと話ができるのも嬉しいです」
「実家暮らしだから、夜遅くに帰ることもままならなくて、今日は短い時間でしたが七海と出会えて、そして、話をすることができてとても楽しかったし」
「今のご時世的にも直接会うのって結構難しいじゃない、電車を使うにしてもできるだけ密にならないように気をつけてるんだ」
「まぁ、そうなるよね」
七海の表情からは生き生きとした感情が伝わって来る。部屋着姿の七海はさっきまでとは違ってもっと身近に感じることができる存在になっていた。
「あっ、そうそう。先輩も家にいるのかな?」
「えっと、お兄ちゃんなんだけど、実は私の部屋に一緒にいるんだ」
七海がスマホを手に持って反転させると彼女の部屋が開いていて、そこに立っている先輩の姿を見つけることができた。
「よっ、はじめ。元気だったか?」
画面越しながら先輩との再会が実現できた。
「先輩は相変わらず元気そうですね。七海さんに僕を売り込んでもらったようで、ありがとうございます」
「いやいや、妹の奴ったら昔っからお前にぞっこんだったからな。俺がお前の話をするだけで自分の好みにドンピシャだったみたいで、会えば絶対に付き合いたいって豪語してたよ」
「そうだったんですか、そんなにも僕のことが気になっていたなんて、先輩も今まで教えてくれなかたのがずるいくらいです」
画面の向こうには七海と先輩が一緒の空間にいるのがわかる。
「今日のデートは楽しかったようで何よりだよ。ここでお前に見せたいものがあるんだけど」
先輩は突然そんなことを言い始めた。
「見せたいものって何なんですか?」
そう言うと先輩は七海のスマホを動かして、七海の部屋にあるドレッサーを映し出していた。ドレッサーの上に化粧道具がきれいに並べられているのだが、これが先輩の見せたいものだとは思えなかった。
「七海の化粧品でも見せようとしてるんですか?」
「あっ、お兄ちゃんが見せたいものって、私にはわかっちゃった」
画面の向こうからは七海の声も聞こえて来た。するとドレッサーの右下にある引き出しの中からあるものを取り出していた。
「見せたいものっていうのは、これなんだよ」
画面に映し出されたのは、なにか薬でも入っていそうなガラスの瓶だった。ラベルも何も貼られていないので、何が入っているのかは考え付きもしなかった。
「色々な薬を作っているけど、この薬は極秘に進めている国家プロジェクトの一つだよ。だから、ラベルなんかも無いけど、中には錠剤が入っている。この錠剤の特徴としては有効時間を調整できるようにしたことが挙げられて、錠剤一粒だと一時間、二十四粒以上は一日まで効果が持続するようになっているんだ。一時間から二十四時間まで自由に調整ができることに加えて、薬の感度も調整することができるようにしたんだけど、まだ最終調整中の薬だから、今もデータを取りながら試験をしてるってわけ」
そう言うと先輩は瓶の中から一粒取り出して画面に大きく映して見せてくれた。
「先輩。見せてくれたのはいいんですが、これって一体どんな薬なんですか?効果の持続時間を調整できるってことは、麻酔薬か痛み止めのような薬だったりするんでしょうか。肝心なところを話してくれないと何もわからなないんですけど」
そう言っている画面の向こうでは先輩がいなくなってしまい、七海の姿だけが映っていた。
「太一さん、お兄ちゃんはキッチンから持って来るものがあるので出ていきました。この薬の効果は実際に使って見た方が説明しやすいからって、それで準備しに行ったから、少し待ってね」
そんなことを言う七海の姿を見ていると、何か楽しそうなことが起こることを思わせてくれた。
「この薬だけじゃ何も起こらないってこと?」
「そうよ。この薬を飲むだけでは何も起こらないってお兄ちゃんが言ってたわ。安全のため薬の効果を開始するための仕掛けがあるって言ってたんだけど、それが何かは私もまだ知らないのよ。あっ、お兄ちゃんが戻って来たわ」
ドアが開いた音がしたかと思うと画面の中には再び先輩の姿が現れた。キッチンから持ってきたものというのは、ただの氷だった。水割りでも作るかのように氷を入れたアイスペールをテーブルの上に置き、さっきの瓶を隣に置いた。
「さぁ、準備ができました。効果については言うよりも使うが易しだよ。実際に飲んで見せるのがいいよな。この薬はそのまま飲むだけだと何の効果も起こらないようになっているんだけど、体の一部を氷で冷やすことによって効果が始まるようになってるんだ。だから、氷を持ってきたってわけ」
先輩はそう言いながら瓶の中から薬を一粒取り出していた。
「今は一粒だけ飲むから効果が持続するのは一時間だけだよな。今の時間をよく覚えておいてくれよ。今回は特別に試し飲みするだけだから、いつものように厳密なデータを取ることは無いし、俺も楽しませてもらおうと思ってる」
「先輩、まさかこれって何か危ない薬なんですか?」
「まぁ、そうでもあるし、そうでもない、ただし、使い方を間違うと危ないのは確かだよ。じゃあ、飲んでみるからな」
画面の中で薬を口に入れて先輩が一緒に持って来たコップの水と合わせて一気に流し込んでいた。
「飲んじゃった。じゃあ、次は……」
そう言うと先輩は氷の中に手を突っ込むと手を一気に冷やすのだった。氷の中に手を入れる姿を見るだけでもこっちが寒気を覚えた。
「先輩、冷たいんじゃないですか?」
「まぁな。でも、薬の効果が効き始めるまではしばらく冷やし続けなければならないからな。あともう少しでいよいよ効き目が…出……て……き……た」
先輩は全身からの力が一気に抜けたようで、まるで虫の抜け殻のように床に向かって落ちてしまった。七海はスマホの置く場所を変えて、さらに部屋の中がもっとよく映るようにと超広角レンズに切り替えると、フローリングの上に横たわる先輩の姿と、部屋着姿の七海が一緒に映し出された。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん」
七海は先輩の身体を揺り動かしながら声をかけているが、目を覚ます様子は無かっった。
「まさかだけど、先輩は気を失っているってこと?」
「どうやらそうみたいね。私もお兄ちゃんがこの薬を飲むのは初めて見たからびっくりしちゃった。たしかに気を失っているけどちゃんと息はしているわよ」
そう言って七海は先輩の身体を部屋の真ん中から壁際に動かした。
「じゃあ、さっきの薬って気を失う時間を自由に決められる薬ってこと?」
それを聞いて七海は軽く笑っていた。
「太一さん、そんなわけないでしょ。もうそろそろ分かるわよ」
「そろそろ分かるだって?」
「いいから、もうちょっと待ってくれない?」
これから一体何が起こるというんだろう。先輩が横たわる様子を見ていると何が起こるのか想像することもできなかった。七海と話をしようにも七海が待って欲しいと言うから、ここは彼女の言う通り少し待つしか無かった。
「あっ、もうすぐ来るわよ」
七海がそう言うと画面には見えないものの、七海の部屋のドアをノックする音が聞こえていた。七海はスマホに映る画面をドアが見えるように移動させてから。
「どうぞ。入っていいわよ」
とノックの主に対して声をかけるとドアが開き、そこにはなんと七海と初めて会ったカフェにいた制服姿の女子高生が立っていた。
「お姉ちゃん、お帰りなさい」
どうやら彼女は先輩にとってもう一人の妹らしかった。
「あっ、まなちゃん。今更だけどただいま。学校から帰って来てまだ着替えて無かったの?」
「だって、着替えたら勉強に集中できなくなっちゃうじゃない。ようやく区切りがついたから、これから晩御飯食べようと思ってね。それでお姉ちゃんが帰って来たのに気付いて、何やってるのか気になっちゃった」
どうやら、彼女はビデオ通話していることにまだ気づいていないようだった。とりあえず僕は二人のやり取りを静かに見守ることにしたのだが、ここで七海が意外なことを言い出した。
「あのね、まなちゃん。今、お姉ちゃんはビデオ通話中なんだ」
「あっ、そっかぁ。お姉ちゃんがビデオ通話なんて、なんか珍しいよね。相手は誰なのかしら?まさか、さっきカフェで一緒にいた男の人なの?」
「えっ、まなちゃんたら、どうしてそのことを知ってるの?」
「だって、放課後になって学校の近くのカフェで勉強していたら、黄色のワンピース姿に身を包んだお姉ちゃんが入って来たからびっくりしちゃった。お姉ちゃんのスカート姿なんて高校時代の制服以来見たことないんだから、これは何かあると思ってお姉ちゃんに気づかれないように勉強に集中してたんだ。そしたら、男の人と合流して出て行ったよね。しかも、お兄ちゃんに連絡したらもう知ってたし、私がここで勉強することも計算済みだったってね。ホント嫌になっちゃうわ」
七海にまなちゃんと呼ばれている彼女は部屋の中に入り、スマホの画面を覗き込んで来た。そして、やっぱりという表情を七海に見せていた。七海はスマホを手に取り、妹のまなちゃんと一緒に画面いっぱいに入るようにしていた。
「太一、急にごめんなさいね。妹の愛海(まなみ)が誰とビデオ通話しているのか気にしちゃって入って来ちゃったの」
「あっ、初めまして、飯沼太一です。二人のお兄さんである拓海さんの大学時代の後輩なんです。そして、今日から七海さんとお付き合いさせて頂くことになったので、これからよろしくお願いします」
先輩のもう一人の妹である愛海は、優しそうな笑顔を僕に自然と返してくれていた。
「あっ、実はさっきカフェで二人のことを見ちゃたんです。私は高桑家の末っ子の愛海と言います。この制服でどこの学校通ってるかはわかりますよね。彼氏募集中の高校二年で、趣味はピアノ、付き合うんだったらやっぱりお兄ちゃんみたな人がいいなって思ってます。飯沼さんでしたよね。これからお姉ちゃんのこと、よろしくお願いいたします」
どうやら愛海は先輩のことが大好きらしい、思春期が来ているはずなのにお兄ちゃんのことが大好きというのは不思議だった。
「じゃあ、私はこの辺でご飯を食べて来ようと思いますので、お姉ちゃんとたっぷりお話くださいね」
愛海はそう言って七海の部屋から出ていこうとしたのだが、フローリングの上に横たわる兄の身体を見つけて近づくのだが、まるで驚く様子はなかった。
「あっ、まったぁ。お兄ちゃんったら、またこうやって床に横たわってるってことは例の薬を飲んだのかな?」
愛海は先輩の身に何が起きているのか知ってるかのようだった。
「先輩の身体が床の上に置かれていても全然怖くないんだね」
タブレットの画面にはしゃがみこんで先輩の全身をくまなく舐め回す愛海、スカートの裾が捲くり上がり、もう少しで下着が見えそうなほどにギリギリの状態で画面に映し出されてしまう。
「まなちゃんったらはしたないわよ。お兄ちゃんがあの薬を飲んだんだってことは気付いたわよね」
「もちろん、気付いたよ。お兄ちゃんが飯沼さんにあの薬を飲んで、その効き目を試しているところだって、私にはすぐにわかるもの。お兄ちゃんの身体を見たところ、その効き目は既に出てるってことはこの身体にいたずらしても抵抗しないてことよね」
すると愛海は先輩の胸元に自分の右手を乗せ始めた。
「心臓はちゃんと動いてるし、呼吸もしてるんだよね」
すると愛海がインカメラからアウトカメラに切り替えて、画面には床の上に寝そべる先輩の全身と愛海の姿が映るように調整していた。
「飯沼さん。お兄ちゃんの身体をよく見てくださいね。全身の力は完全に抜けてしまってるのがわかりますよね」
愛海が右腕を持ち上げて腕が床と垂直になった状態で手を離すと、腕が力無く横たわるのがわかった。そして、愛海は次に異常な行動に乗り出していた。
「この状態だと、お兄ちゃんの全身の力は抜けてるんですが、アソコだけはちょっと違ってたりするんですよ」
すると愛海は立ち上がり、先輩の身体に対して腰の上あたりで跨るように立った。そして、そのまましゃがみ込んで先輩のアソコがスカートで隠れるように覆いかぶさっていた。さらにその様子を七海は冷静に傍観していた。
「愛海ちゃん。兄妹同士の仲がいいってことはわかりました。でも、さすがにそれはやり過ぎだと思うけど?」
僕がそう言うと愛海は立ち上がり、シワになったスカートの裾をきれいに直す。
「飯沼さん、あなたたは私のお兄様になるかも知れない人だから、ここまでにしておきますが、お兄ちゃんのアソコを見てもらえますか。さっきのようにしてあげるとなぜかいきり立ってしまうんですよね。これじゃあ恥ずかしいからおとなしくさせないと」
横たわる先輩の身体からは全身の力が抜けているはずだが、アソコだけはどうやら気を失うことはなかった。天を仰ぐように垂直にそそり立っているのだ。そして、愛海はその上から優しく手を重ねるとゆっくり元の大きさへと戻って行く。
「気を失っているような状態のお兄ちゃんを見るのは、実は私にとっては初めてのことだったんです。お姉ちゃんが言っていたことが本当なのか、試してみたくてそれでやってみたんです」
不思議なことに愛海は恥ずかしがるような素振りを見せることもしなかった。
「ねぇ、七海。愛海ちゃんって普段からこんな感じなのかな?」
「えっと、もちろん普段からこんな感じよ」
「それって、本当?」
すると画面の向こうでは愛海の自然な笑顔が少しずつニヤつき、お腹を抱えながら吹き出し笑いを始めた。
「はっ〜はっ、はっ。お姉ちゃん、私、思わず我慢できなくなっちゃった。ゴメン、ゴメン。もうこれ以上は耐えきれなくなっちゃったから、ここでまじギブアップするわ」
「じゃあ、ここは私の勝ちね」
七海と愛海の会話する様子を見る限り、二人で何かを賭けているかのようにみえた。
「なぁ、七海。一体どんな勝負をしてたんだ?」
「あっ、それはね。単純にどっちが先に我慢できなくなるのか勝負してたんだよね。まなちゃんの方が先に我慢できなくなっちゃって吹き出しちゃたでしょ」
そんなことを言う七海の隣にはようやく落ち着きを取り戻した愛海がやって来て画面には隣合う二人の姿が映し出されていた。
「お前ったら、こんな状況でもよく冷静にいられるよね。もうネタばらしちゃっていいよな。もうこれ以上はちょっと無理、ムリ」
愛海が急にそんなことを言いだすと七海が言葉を続けた。
「ねぇ、太一。さっきの薬が何の薬なのかって、まだ教えていなかったよね。実はここにいる妹の愛海なんだけど」
そこまで言うと愛海が口を開けた。
「俺だよ、俺。拓海だよ。さっきの薬を使って愛海の身体に憑依してるんだ」
「えっ、憑依だって?」
「そうそう。お兄ちゃんがまなちゃんに憑依してるの。お兄ちゃんが研究中の憑依薬を使ってね」
「憑依だなんて、本当にそんなことができる薬なの?」
今はタブレット越しに確認するしか無いが愛海の姿を見る限りは、先輩が憑依していると考えていいのかも知れない。
「先輩がさっき飲んだ薬によって愛海ちゃんの身体を操っているってこと?」
「だからぁ。何度言ったらわかるんだよ。さっきの薬を使って俺が妹の愛海に憑依したんだって、本当の愛海だったらこうやってお前が見てる前で胸を揉んだりなんか絶対にしないだろ、他にもお前との秘密を七海に暴露することだってできるんだし」
そう言うと愛海は両手で自分の胸を掴んで、上下左右に揉み始めていた。
「愛海ちゃん、いや、先輩かな?僕が見てるんだからやめなさい!」
「まぁ、信じてくれたらやめるよ」
「あぁ、わかりました。信じます。先輩の会社って大手の製薬会社なんだし、そこで極秘に進めなくてはならないプロジェクトだって言うなら、ありえない話でもないんで」
「なぁ、はじめ。俺がさっき吹き出してしまったのは、俺が愛海の姿で変な行動をしてもお前が何も気づかなかったからなんだよ。ここまでヒントを出してやったのに気づかないお前を見てると笑わずにいられないだろ」
「確かにネタバレするまで気づかなかったけど、そんな風に完璧に愛海ちゃんを演じられたらわかるはずないよ」
「この薬って時間調整ができるだけじゃなく、憑依される側の意識感度も調整できたり、記憶を引き出せるかどうかについても、細かくカスタマイズできる特徴があるんだ。今使っている薬は効果の持続時間は一時間、意識感度はまるでお酒を飲んでいる時のようなほろ酔い状態、記憶は全て引き出せるようにしてある。意識感度を調整しているから、俺が愛海から抜けたとしても俺が動かしたことをすんなりと自分が動かしたように記憶して、憑依されたことは覚えていないんだ」
愛海に憑依している先輩は薬の効果について詳しく説明をしてくれた。
「先輩。とにかく薬の効果については理解しました。あっ、それならもしかして、七海に憑依したこともあるってことですよね?」
「お兄ちゃんが私に憑依だなんて、無いって言ったらそんなの嘘になるわよね」
「じゃあ、先輩は七海にも憑依したことがあるってことで間違いないですか?」
すると先輩は愛海の姿で本当のことを話してくれた。
「なぁ、はじめ。心して聞いて欲しいんだけど、俺は確かに妹たちの身体も試験のために使って来たんだ。もちろん七海の身体も何度か入らせてもらったよ。でも、それはちゃんと七海の同意を取った上でのことだし、今こうやって愛海の身体を使っているのもちゃんと同意した上での話だよ。そうだろ、七海」
「お兄ちゃんの言う通りよ。私に憑依してって私が頼んだくらいだし」
タブレットの中の七海と愛海は肩を組みながら笑顔を見せてくれる。
「そうだったんですね。まぁ、それなら良かったです。僕にとって七海はもちろんのこと、愛海ちゃんも大切な人だし、今度直接会ったら僕にもその薬について教えてくれますか?」
「そうだな。今日のデートも楽しかったし、お前なら秘密を守ってくれるだろうし、実験台になってくれるのなら考えておくって」
「ありがとうございます。というか、これからよろしくお願いします。先輩が七海さんの兄だってことは、万一のことがあれば義理のお兄さんになることだってあるんですもんね。お手柔らかにお願いします」
すると愛海はカッターブラウスのボタンを上から二つ外して、リボンを弛めると普段の愛海からは考えられないだらしない姿になった。
「それにしても愛海の奴は真面目なんだから、首が窮屈でいけねぇや。なぁ、はじめ。お前の『兄』としてついでに話しておきたいことがあるんだけどな。七海とのマスク越しのキスはどうだったんだ」
愛海の姿ながらその話し方や仕草はすっかり先輩のものとなっていた。しかし、マスク越しのキスのことを先輩が知ってるのは意外だった。七海が話をするとも考えにくかった。すると、愛海の姿を使って先輩は一気に話出した。
「実は今日のデート、ずっと見守ってたんだよ。ホームに滑り込んで来た電車に乗るまでは七海の意識をほんの少しだけ残した状態で俺が主導してたんだけど、この薬を三粒だけ飲んでいたから、電車に乗ってすぐにこの薬の効果が無くなったんだ。あの時、一旦乗った電車から降りたのは七海に主導権が戻ったけど、憑依したままの状態は続いていて、七海がマスク越しのキスを始めたのには正直俺も驚いたよ。あの感覚は俺にもシェアされてたからな。マスク越しのキスは七海がずっと考えっていたようだけど、さすがの俺にはできなかったから、快速電車の通過待ちでドアが開いている時間も長かったこともあって、七海の奴がやりたいのはわかってたけどな。キスが終わってから薬の効果が完全に切れて元の身体に戻ったんだ。だから、あの時のお前の思いを聞いてみたくて」
愛海の口から出てきた話にはもちろん僕は驚いっていた。
「えっ、ということは、僕はずっと先輩が憑依した七海さんとデートしてたってことなんですか?」
「ずっと、ではないよ。七海と会ったカフェで途中で七海が化粧室に向かっただろ。あの時に七海から連絡をもらって、七海に頼まれて俺が憑依したんだよ。化粧室から帰ってからの雰囲気が違うのに気づかれたかもって思ったけど、分かりにくくするために七海に化粧を直してもらったタイミングで七海の身体に憑依したってわけ」
「それって、ほとんどじゃないですか!ずっとじゃないって言っても、デート時間は先輩が憑依して主導権を持ってたんですよね。その時の七海の意識はどうだったんですか?」
「だから俺が憑依している間の七海はほんの少し意識がある状態、例えて言うなら酔っ払った状態に近い感じだよ。身体が勝手に動くけど、強く抵抗すれば俺の動きを静止することもできるんだけどね。七海は俺の動きを静止することはしなかった。七海の奴が自分で直接お前とデートするのは嫌だって言って、俺に代弁してもらいたかったんだよな。だから、俺が憑依している間はお前の身体に指一本触れることもできなかったんだよ」
「じゃあ、別れ際に七海に主導権が戻って、マスク越しでそれで自分が望んでいた行動を一気に取ってしまったってことなんですか?」
「それは、隣にいる本人の口から聞くしかないだろ、そうだよな、七海」
妹の愛海が姉に向かってタメ口を使っているように見えるが、これは実際には兄が妹に向かって話しているのだ。
「そうねぇ。お兄ちゃんがさっき言ってくれた通りなんだけど、太一と直接会って私の気持ちが揺るぎなかったら、化粧室に行くと席を外して、そこでお兄ちゃんに憑依してもらて、私が言いたいことを代弁してもらうことにしてたのよ。メイクまでは私が自らやりたかったから、憑依薬の効果が出るタイミングを合わせてもらったの」
七海は話を一旦区切り一息ついた。再び口を開く。
「そこから先の私はお兄ちゃんが私の身体を動かすのを傍観するだけ、でも場合によってはお兄ちゃんの動きを止めることはできたけどね。この身体の主導権をお兄ちゃんが持ってる時の記憶は残って、それはまるで私が思った通りに動いたような感覚で残ってるの。だから、デートのことはちゃんと覚えているの、別れ際に私が主導権を持った瞬間からは、自由に身体を動かせるようになったから、前々から考えていたマスク越しのキスで別れようと考えていたの。挨拶だと思ってやれば思い切って行動できるしね」
「七海、それって本当なのか?」
画面に向かって一言粒やいた僕の問いかけに七海は俯いて答えていた。
「先輩、わかりました。今回の七海とのデートは七海による計画であって、先輩はあくまでも協力しただけ、なぜか知らないけれど妹の愛海ちゃんもその脇を固めるキャストとして登場したってことなんですよね」
「そうだよ。愛海にもこうやって協力してもらえたし、七海のために一緒になって協力してやったってわけだよ。新型コロナじゃなかったらここに来てもらってもいいんだけど、さすがの俺も両親には研究のことを内緒にしてるから、もう少し落ち着いてくれないとここに呼ぶのは難しいだろ。そのうち落ち着いて来たら画面越しではなくて一緒に会おうや」
愛海ちゃんの口から先輩の言葉が出てくるのは、やっぱりなんだか違和感を感じるが、これも先輩の研究中の薬の効果なのだろう。
「先輩。僕も今はまだ混乱してるんですが、これからもよろしくお願いします。そして、七海もよろしく」
画面の向こうに見える七海と愛海は濃厚接触しながら、画面いっぱいにその笑顔をぶちまけてくれた。
「なぁ、はじめ。新型コロナがもう少し収まってうちに来れたら、家族以外のデータも欲しいし、この薬を使ってもらうのもいいかな、これからもよろしく」
愛海の姿に先輩の姿が重なって見えるようになっていた。
「先輩、ありがとうございます。今日は七海のことを大切にしているお兄さんらしい一面を見ることもできました」
すると、今まであまり話ができないでいた七海の口が開いた。
「ねぇ、二人とも。私のことで色々と迷惑をかけてしまってゴメンナサイ、これからはお兄ちゃんも太一さんのことも同じくらい大切にするからね」
七海の顔にもすっかり自然な笑顔が戻っていた。画面越しの会話を通して三人はすっかりと打ち解けていた。
「あっ、お兄ちゃん、静かにして!」
七海は口の前に人差し指を立てて静かにするように言ったので、僕は画面でミュートをタッチして側耳を立てている二人の様子を静かに見守っていた。よく耳を澄ますとゆっくりと階段を上がってくる足音が聞こえた。そして、「まなちゃ〜ん。ご飯冷めちゃうわよ」というお母さんと思われる声が聞こえて来た。
「やっば。この状況でお母さんが部屋に入るのはまずいって、お兄ちゃん、早くいつものまなちゃんのように身だしなみを直して、私はお兄ちゃんの身体をベッドの下に入れて隠すから、早く早く」
小さな声で七海が愛海に憑依している先輩に命令すると、先輩は制服のボタンを留めてリボンを元に戻し、七海の部屋にある大きな姿見で身だしなみを整えた。七海は床に横たわる先輩の身体をベッドの下に移動させ、僕はその様子を画面でじっと見守っていた。次の瞬間、ドアをノックする音が聞こえる。
「ななちゃん、ドア開けるわね」
「はぁ〜い、お母さん。開けていいわよ」
七海の部屋のドアが開き、エプロン姿の女性が入って来た。
「あら、まなちゃんったら、ここにいたのね。ご飯の準備したんだけど、なかなか降りて来ないから心配してあなたの部屋に行ったら、もぬけの殻だったから」
「あっ、お母さん。お姉ちゃんと話をしてたら盛り上がっちゃって、ゴメンね。すぐに下に行くから先に降りててくれない?」
「わかったわ、まなちゃん。じゃあ、母さん下で待ってるわね。ななちゃんの邪魔ばっかりしてないで、早く食べてお風呂に入りなさいよ」
そう言い残すと女性は七海の部屋から出ていった。そして、階段を降りきったことを確認すると、二人は安堵した表情を浮かべていた。
「あっ、正直焦ったぁ。俺の身体、見つからなくて良かったよ。母さんたちには内緒にしてることなんだから、このことを知られたら変態呼ばわりされてしまうしな。とにかく、俺はとりあえず愛海として晩御飯食べて来るからな。あとは二人で楽しいひと時を過ごしな」
そう言って、愛海の姿をした先輩は本当の愛海のように「じゃあね、お姉ちゃん」と言い残して部屋から出て行くと、画面の向こうには七海が一人残されていた。僕はミュートを解除して七海とのビデオ通話をしばらく続けることにしたのだが、その話はまるで延々とエンドレスに続くようだった。途中、ベッドの下に隠した先輩の身体が再び動き出すと七海の部屋を出て自分の部屋に戻って行ったが、そのあとすぐ自分の部屋に戻って僕にメッセージを送って来た。それからすぐにお風呂上がり(どうやらお風呂に入ってから効果が切れたらしい)の愛海がパジャマ姿で改めて僕と挨拶をしてくれて、自分の部屋に戻ると勉強を再開させたようだ。七海としばらくビデオ通話を続けながら深まる夜、僕らにとってはただの始まりに過ぎなかった。

(完)

本作品の著作権等について
・本作品はフィクションであり、登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
・本作品についての、あらゆる著作権は、すべて作者が有するものとします。
・本作品を無断で転載、公開することは御遠慮願います。
copyright 2020 Ayaka Natsume
[ 2020/12/11 18:00 ] 憑依モノ祭り(憑依ラヴァーver.) | TB(-) | CM(0)
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